第29話 浄化してみよう

 少しほうきの速度を落として、ゆっくり奥へと行く。いた。どん詰まりに大きな体を横たえて、グリフォンがこっちを見ている。


 こんなところまで、どうやって入ったのかと思ったけど、上から光が差してる。天井に穴が開いてるみたい。そこから入ったのか……


『何をしに来た、人間』


 喋った!? あ、違う。頭の中に直接響くような声。これ、念話だ。


『お前も、我らを狙ってきたのか?』


 我ら? 他にもいるのかな……あ、あのグリフォンの後ろから、弱い魔力と濃い瘴気が漂ってくる。子供?


「ここにあなた達がいると、困る人がいるの。どこか他に行ってくれないかな?」


 話が通じればいいけど、多分、無理だろうな。手前のでかいグリフォン、多分瘴気の影響で体力が削られてる。


 治したいけど、今のままだと相手の気が立ってるから、近寄る事も出来ないし。ヘタな事したら、ここで暴れられそう。


『……我らは、動けぬ』

「動けるようになるなら、余所に行ってくれる?」

『無理だと言っている。ここでなければ、吾子は孵化出来ぬ』


 背後にいるの、子供じゃなくて卵か!? そういえば、グリフォンは大地の力が強い場所でないと、孵化しないってじいちゃんが言っていたっけ。


 卵を産んで孵化させる為にここに来たけど、ちょうど人が石材を切り出す場所にしていたから、かち合ったって訳だね。


 でも、このままだと、卵も無事にはすまない。


「あなたの卵ね、瘴気で穢れてる。このままだと、多分……」

『わかっている。だからこそ、ここを選んだ。この地の力なら、きっとこの穢れも――』

「無理だよ」

『何?』


 瘴気の穢れを払うのは、浄化の力以外にない。大地の穢れは時間が経てば自然に浄化がされるけど、それだって十年二十年の単位じゃなく、下手をしたら何千年って単位だ。


「確かに大地の力は強いよ。でも、そこまで穢れを受けちゃうと、このまま放っておけば卵のまま死んでしまう」

『そんな……嘘を吐くな! 人間は、皆嘘吐きだ!!』


 激高した親グリフォンは、立ち上がって翼を広げる。威嚇のポーズだ。


「嘘じゃないよ。ここから動かないから、卵とあなたの浄化をさせてほしい」


 なるべく相手を刺激しないように、言葉を選ぶ。このままにしておけば、卵だけじゃなく親グリフォンの命も危うい。


 私の提案に、グリフォンが迷いを見せ始めた。何とか、説得出来ないかな……


 あ、そうだ。


「嘘じゃない代わりに、少しだけ、この場の瘴気を浄化するよ。見てて」


 卵の影響か親の方か、坑道のどん詰まりのこの場の空気は若干穢れている。そこに、ほんのわずかな浄化の魔法を施した。


『な! ばかな!! 瘴気が、消えている?』

「わかってもらえた? 同じ魔法を使えば、卵の浄化も出来ると思う。もちろん、あなたのものね。浄化で穢れが消えれば、余所にも行けるでしょ? ここは人が石材を切り出す場所だから、長くいると人との諍いが生まれちゃうの」


 話が通じるなら、何とか説得してここを離れてもらった方がいい。なんとなくね、言葉が通じる相手って、討伐しにくいから。


 親グリフォンはしばらくその場をうろうろしながら考え込んでいた。何だか人間臭いなあ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る