第27話 石切場の問題

 翌日にはデンセットに戻って、フォックさんを訪ねる。あの人も忙しい人だから、どこで捕まえるかと思ったけど、冒険者組合の方に行ってみた。


「こんにちはー。フォックさん、います?」

「あら、サーリさん。組合長なら上にいますよ。今、ご案内しますね」

「ありがとうございます」


 カウンターの受付のお姉さんがすぐに立って、二階の組合長室まで案内してくれた。


「おう、サーリか。どうした?」

「えーと、砦の修繕に石材が欲しいんだけど、どこで手に入るか教えてほしいの」

「石材か……」


 あれ? フォックさんの表情が暗い。何かあったの?


「石屋はあるにはあるが、あそこが扱っている石材は、街の復興に全て使っていてな。余ってる石材はないんだよ」

「あー……」


 なるほど。そういえば、街中の建物も、殆ど石造りだもんね。気候的にも、そっちの方がいいのかな……


 考え込んでいると、フォックさんが呟いた。


「今は石切場も大変な状況だしなあ……」

「何かあったの?」

「奥の方に、グリフォンの巣が出来てるらしくてな。石材が切り出せなくなってるそうだ。それで、うちのギルドから討伐人員を出そうと思ったんだが、何しろ相手が凶暴な魔獣だからな。引き受けられる人間がいないんだよ」


 グリフォンは正確には魔獣ではなく、幻獣だ。滅多に現れない存在で、知能が人並みかそれ以上とも言われている生き物だって、じいちゃんが言っていた。


 そうか……グリフォンか……


「フォックさん、その石切場、私が行ってもいい?」

「ええ!? サーリが行くのか!?」


 もの凄く驚かれた。しかも、背後からも驚きの声が上がっている。そんなに変かね? 砦の猪ども、一人で撃退したって知っているよね?


「石切場から石材が切り出されないと、私も困るし。街も困るんでしょ?」

「それは……まあ……」

「とりあえず、行ってみるよ。で、ダメそうなら国のもっと上の方にお願いしてみるのはどう?」


 実際にお願いしに行くのは、多分領主様だ。あの領主様なら、頑張ってくれそうだから、期待しておく。


「……仕方がない」


 私の提案に、フォックさんは渋々乗った。そりゃそうだよねー。他に行けそうな人がいないっていうんだから。


 フォックさんは、引き出しから一枚紙を取り出すと、何やら書き付けてここまで案内してくれたお姉さんに渡す。


「今すぐ依頼として処理してくれ。サーリ、こいつと一緒にカウンターに行って受注してこい。依頼料が出るぞ」

「本当に? やったー!」


 実は依頼という形でなくとも、自分が石材欲しいから行くつもりだったんだけどね。お金出るならやる気はもっと出る。


 お姉さんと再びカウンターへ。処理をしているのをおとなしく待っていると、お姉さんが何やら笑い出した。


「どうしたんですか?」

「ああ、ごめんなさい。組合長があなたに押されてる姿が、何だかおかしくて。泣く子も黙るフォックなんて言われているのにね」

「そうなんですか?」


 知らなかった。私にとっては、最初からフォックさんて親切なおじさんだからなあ……


「とりあえず、処理は終わったわ。はいこれ。無茶せず、無理だと思ったら帰ってくるのよ?」

「はーい」


 多分、仕留めるかどうにかするとは思う。でも、グリフォンかあ……そんなファンタジー生物、こっちに来てからも初めて見るよ。ちょっと前までは、不気味なデザインの魔物がメインの相手だったしね。


「それと」


 これから向かう先にいるだろうグリフォンに意識を飛ばしていると、お姉さんが声を潜めてきた。


「今回出たのはグリフォンだって話だけど、実は大型の鳥の魔獣じゃないかって話なの。それでも大きくなると、攻撃力が増すから危険は危険なんだけど」

「なるほど」


 だから何だという訳じゃないけど、もしかしたら、グリフォンではないかもしれないって事か……本当に違ったら、残念。


 お姉さんには、再度無茶しないように、気をつけるようにと言われて、組合を出た。


 ……私、もう成人してて、結婚もしてたんだけどなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る