第26話 在りし日の姿

 翌日は雨。せっかく砦の修繕に乗り出そうとしたのに。


「あ、そうだ」


 どうせ作業に取りかかれないなら、その下準備でもしておこう。まずは、砦の在りし日の姿を見てみようかな。


 小さい頃、おばあちゃんに買ってもらったお人形で遊んでいた時、わざと壊した事がある。何でそんな事をしたのか、今となってはわからないけど、あの時はそうしたかったんだろうなあ。


 そうしたら、おばあちゃんに凄く怒られた。


『ものには魂が宿るんだよ? だから、ものを粗末にしちゃ、ダメ』


 口調は優しかったけど、あの時のおばあちゃんは怖かった。だから今でもよく覚えている。


 ものには魂が宿る。そう信じているせいか、ものや場所の記憶をたどる魔法を作った。これも、じいちゃんには驚かれたんだよなあ。あの時のじいちゃんの顔は傑作だったけど。


 どうも、こっちの人はそういうものには魂云々って考え方はしないみたい。でも、ものにも土地にも、ちゃんと記憶は染みついている。だから、きちんと読み取ってやれば、色々な事がわかるんだ。


 という訳で、砦の記憶を探ってみよう。


「うーん?」


 遡りすぎて、砦が築かれた頃まで戻っちゃった。その記憶によれば、この砦は本当に大勢の人の手によって作られたらしい。


 最初は、デンセットの守護の為。昔は今より戦争が多く、略奪行為も多かったってじいちゃんが言っていたっけ。


 何度も繰り返される、隣領地との争い。え……同じ国の中で戦争していたの?


 でも、やがて邪神が復活。北の魔大陸から魔物が飛来するようになった。


 やがてここコーキアン領も、隣のウーズベル領も、魔物による侵攻によって苦しめられる事になる。荒らされる畑、浚われる家畜、殺される人々、そして汚染される大地。


 隣の領地との戦争の最前線として使われたこの砦は、すぐに魔物に対する砦として使われるようになった。


 魔物の侵攻を食い止めなくては、この二つの領地どころかダガード王国、ひいては北ラウェニア大陸全土が滅んでしまう。


 そして、砦が出来て十年近く、やっと召喚された神子が邪神を封じた。その頃には、この砦は度重なる戦闘によりもうボロボロ状態だったみたい。


「……何か、ごめんなさい」


 十年も何やってたんだ、って言葉は、再封印の旅の途中でも、何度か言われたなあ……


 でも、しょうがないじゃん。私はただこっちの意思関係なく呼び出されただけだし。文句言うなら、召喚術をいつまでも使わなかった人達に言ってよ。


 召喚されて割とすぐに旅立ったし。でも、魔大陸って遠いんだよね。簡単に到達できる場所なら、こっちだって苦労しなかったのに。


 まあ、それはいいや。で、邪神が神子ユーリカによって再封印――本当は浄化しちゃったけど――されてすぐ、砦は放棄された。


 で、あの猪の魔獣が棲み着いちゃった、と。


「うーん。建設当時の姿に戻すのもいいんだけど……もうちょっと、手を入れようかな」


 何せ砦だから、頑丈さはあっても装飾性は全くない。当たり前だけどね。


「どうせなら、全体の外観は漆喰塗って白くしちゃおうか……」


 ちょろっと漆喰を検索先生に聞いてみる。ふむふむ、消石灰と水と糊ね……消石灰って、どこで手に入るんだろう? これも検索先生に聞いてみよう!


 あ、近場に石灰石のある山がある。そこから取ってきて、焼けば消石灰に、そこに水と糊……繊維質のものか……を入れて混ぜれば出来上がり、と。


 塗るのは魔法で出来るから、まずは石灰石を手に入れないと。その前に、まずは砦の崩れている部分を修繕しないとね。危ないし。


 んじゃあ、まず手に入れるのは、修繕用の石材と漆喰用の石灰石に糊になる繊維ね。

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