第16話 何か、変っぽい
連れてこられた先は、人気のないカウンターだ。二階は一階とほぼ同じ造りだけど、人の数が全く違う。
カウンターでは、一枚の用紙を出された。これに書けばいいのか。えーと、名前と年齢、これまでの経歴、職歴なんかを書けばいいらしい。
名前か……まさかユーリカの名を出す訳にはいかないよなあ。あんまりこっちにいない名前らしいし。
かといって、本名のエリスを名乗る気にもなれない。この名前、嫌いだから。祖母も母もカタカナ表記の名前だけど、漢字表記も簡単に出来る。なのに、私の名前だけはそうじゃない。そんな辺りも、嫌いな理由だ。
それはともかく、今は名前を決めなきゃ。おばあちゃんの名前が使えないなら、今度はお母さんの名前のマリカを使う? でもユーリカときてマリカじゃ、バレバレだよね。
しばらく悩んだ後に、サーリと書き込んだ。エリスは使いたくないからちょっともじってリサ、それをさらに変化させてリーサ、ひっくり返してサーリ。ひねりすぎてもう元が何なのかわからなくなってる。
でも、それでいいんだ。どうせ偽名だし。身分証明出来るものなんて何も持っていないけど、こっちでは身元保証をしてくれる人がいればいいみたい。
私の場合、どっちもなしだ。だからこそ、北に来たとも言える。こういう人手が足りない場所は、身元保証がなくとも仕事を探す事が出来るから。
とにかく、名前はサーリ。経歴は……くびれの辺りの田舎にいた事にしよう。魔法が使える事、田舎で魔法を使う仕事をしていたけど、保護者が亡くなったのを機に田舎を出てきた事。
そんなでっち上げの経歴を書き込んで、さっきの女性に渡す。彼女はざっと用紙に目を通して驚いた様子でこちらを見た。
何か、疑われるようなところが、あったのかな。
「あら、あなた魔法が使えるのね。それなら仕事の幅が広がると思うわ。念の為、魔力測定を受けてもらえる?」
「え、ええ。もちろん」
なんだ。疑われた訳じゃないのか。ちょっと焦ったけど、何とか登録出来るみたいだから、良かった。
女性はカウンターの下から、何やら板状のものを取り出す。これが、魔力を測定するもの? 初めて見た。
今まで、魔力測定なんてやった事がないから。神子って立場だったもんね。
「じゃあ、ここに手を置いて。ちょっとぴりっとするけど、いいって言うまで手を離さないでね」
「はい」
言われた通り、板状のものに手を置く。あ、本当にぴりぴりする。痛いって程じゃないんだけど、何か軽い静電気みたい。
そのまま待ってたら、女性の顔がみるみる険しくなってきた。あれ……何か、まずい事でもあったのかな。
「ちょ、ちょっと待っててもらえる? あ! 手はもう離していいから。そこに座って待っていて!」
そう言い置くと、女性はどこかに走り去ってしまった。置いてけぼり。何があったんだろう。
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