第12話 目的地
北ラウェニア大陸は広大だ。その広い大地を、ほうきに乗って空を行く。いやあ、快適快適。
周囲に結界を張り、下からは空の一部に見えるように偽装しているので、下から見られても問題なし。
たまに鳥がぶつかりそうになるけれど、結界の周囲に更に風の渦を創り出しているから、それに流されて結界にはぶつからないのだ。
そんな空の旅も、そろそろ終わりが見えてきた。少し先に、ダガードへ入る国境の関所が見えた。やっとここまで来たかー。
さて、私の前には二つの選択肢がある。このまま姿を現して徒歩で国境を越えるか、これまで同様空からこそっと入るか。
ちょっとだけ考えて、周囲を見てから決めた。ここいらは森……というか林があるので、その奥で一泊野営、明日の朝一番で国境を歩いて越える事にする。
別にパスポートがある訳でなし、入国審査も厳しくないっていうから上を通り抜けてもいい気がするけど、まあ、気分?
野営に良さげな森も見つけたので、そこに下りる。ちょっと時間が早いけど、テントを出して一服。目的地は目の前だから、ここでゆっくりしてもいいよね。
夜、満天の星空の下で、湯上がりの体を冷ます。北ラウェニア大陸は、これから冬本番がやってくる。
結界の外は、この時間帯かなり寒い。でも、テント周辺は常に適温状態だ。だから湯上がりに薄着でこうしていられるんだけど。
明日はちょっと早めに起きて、国境を越えよう。
時計があるんだから、時間を計る事が出来る訳で、それを使って目覚ましという魔法も作ってみた。じいちゃんには笑われたけど、今それがとても役に立っている。
結構な音量でたたき起こされて、パンとコーヒーで簡単な朝食を終えた後身支度をして、テントを収納する。そのまま街道に何食わぬ顔で出て、国境へと向かった。
この時間ならそんなに混んでないだろうと思ったのに、結構人がいる。計算違い。
「お嬢ちゃん、一人かい?」
「え? ええ」
歩いていたら、いきなり声をかけられた。見ると、三十代くらいの男性二人。なんとなく、嫌な感じ。
「女の一人旅は危ないよ。俺らが一緒に行ってやるよ」
押しつけがましい言葉。だから、こっちもつっけんどんに返す。
「いりません」
日本人的返答で「結構です」とか「いいです」って言うと、向こうの都合のいいように取られるから気をつけろって教えてくれたのは、浄化の旅に同行していた兵士達の一人。隊長だったか団長だったか、どっちだっけ?
はっきり断って少し早歩きでその場を去ったんだけど、男達はついてくる。
「おい、親切で言ってやったのに、何だその言い方は」
「そうですか。いらない親切です。さようなら」
親切で言ってくれる人なら、無愛想な断り文句に呆れても、こんな風に絡んできたりはしない。親切心ではなく下心ありだね、まったく。
「待てよ! いで!」
私の肩を掴もうとした男は、結界に阻まれて突き指したみたい。結界って、固い壁のようなものだから、知らずに手を出すとそういう目にあう。
「私、魔法士ですから。ヘタに手を出すと、痛い目見ますよ、おじさん達」
「この!」
「馬鹿! 国境が目の前なんだぞ。てめえ、覚えておけよ」
凄い。こんな捨て台詞言う人、本当にいるんだ。もちろん覚えておく気はない。国境を越えたら、一挙に北まで行くつもりだから。
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