第10話 お約束

 牝鹿亭を出た私は、早速ダガード王国へ向かう事にした。


 さっきの店員さんも言っていたけど、ダガードは北ラウェニア大陸でも一番北に位置していて、魔大陸とは海を隔てるだけだった。だから、魔物の被害も一番大きかったって聞いてる。


 度重なる魔物との戦闘で、土地も水も荒れて瘴気に穢されたらしい。荒れた土地を復興するだけでも大変だろうに。


 穢れを払うには、教会の聖職者のみが使える神聖魔法が必要だ。教会は唯一無二の力を使って、民の為に穢れを払う……らしいよ。


 その割には、法外な金額を要求するって言うけど。だからダガードはかなりのお金をかけて穢れを払わないとならない。


 ちなみにこの神聖魔法、神子である私も使えます。私、結婚していたけど、神子の資格も能力もなくしていないんだ。でも、気分は元神子。もう神子として人前に出る気はないから。


 もしダガードがまだ教会に穢れの除去を頼んでいないのなら、私がやっちゃおうかな。どうも教会の連中は好きになれないし。あいつらの収入源を潰す事が出来るなら、嫌がらせとしてやるのもいい。


 何故嫌いかといえば、邪神再封印の旅の最中に立ち寄った大きな教会の聖職者達は、全員漏れなく偉そうだったから。


 そうでなかったのは、教皇庁の教皇聖下と総大主教くらいかな。総大主教の方は、違う意味でちょっと近寄りたくないんだけど……


 とにかく、聖職者と名乗っているくせに人を小馬鹿にするような連中は嫌い。思い出したら、また腹が立ってきた。


「嫌な事思い出しちゃった」


 忘れる事はないけど、今は目の前の事に集中しておこう。


 行き先も決まったし、お腹も膨れたし、後はまた食料を買い足しておこうかな。この先どんな状況か、全然わかんないから、せめて食べるに困らないようにしておきたい。


 そう思っていたのに、ちょっと通りの角を曲がったら、見知らぬ男達に絡まれた。


「ちょいとツラ貸してもらおうか」


 一瞬ヅラって聞こえてカツラじゃないし! て反論しようとしたけど、これはいわゆる「顔を貸せ」って奴だね。


「私の顔は取り外せないので、貸せません」


 どっかの正義の味方じゃないんだから、顔が取り外せたら怖いよ。まあ、違う意味で言っているのはわかってるんだけど、こういう連中は大嫌いだからちょっとからかってみた。


 そうしたら、案の定相手の男達は簡単に激高したよ。人の胸ぐらをいきなり掴んできたから、雷撃を使って失神させておいた。あ、手を外させる事も忘れない。


 いきなり大男が倒れた事に驚いた男達だけど、これで引き下がる事はなかった。引き下がっておけば、何もしなかったのに。


 結局全員伸したので、近場を通った人に声をかけて、警邏の兵士を呼んできてもらった。これで兵士とこいつらがグルだったりした日には、ちょっと暴れちゃうぞ?


 結果、私の杞憂でした。兵士達はちゃんとごろつき共を捕縛して連れて行った。周囲で見ていた人達も多く、証人だらけだったしね。


「話を聞きたいから、詰め所まで同行してもらえるかな?」

「わかりました」


 ……兵士の人、私の事を子供と間違えてないかな。一応、これでも成人しているんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る