第9話 情報収集

 北の玄関口と呼ばれる国フェーベクス。その王都ゴノートに降り立った。フェーベクスには北に向かう人や物が集まるので、北大陸の情報も集まるんだって。これも、再封印の旅で知った知識だ。


 さすがにこの辺りまでくると、空気がひんやりしてる。秋もそろそろ終わりの頃だから、冬の空気になってきてるんだな……


 ゴノートはローデンの王都に比べるときらびやかさには欠けるけど、建築その他の技術力が高く、街の至るところで窺える。


 ゴノートに入り、少し街を見て回る。さて、北の国の情報を知るには、どこに行けばいいかな。


 キョロキョロしながら歩いていたら、背後から誰かにぶつかられた。

「危ねえな! しっかり前見な!」


 何あれ。ぶつかってきたのはそっちでしょうが。気分悪いと思っていたら、通りの屋台のおじさんに声をかけられた。


「お嬢ちゃん、懐のものは無事かい?」

「懐?」

「さっきのあいつ、スリだよ」

「ああ」


 おじさんに言われて、やっと気づいた。さっきぶつかってきたのは、私の財布をすろうとしたスリらしい。


 でも馬鹿だね。お金なんて亜空間収納に全部入れてるから、すりようがないのに。


 にしても、あんなのがいるなんて、ゴノートはあまり治安が良くないのかな。それをちらっと屋台のおじさんに聞いてみたら、そうでもないんだって。


「今はとにかく北大陸の復興の為に各国人手を欲していてな。おかげでゴノートには二年前より人が増えてんだ。でも、そのせいで警邏の兵士達も手が回らない状態なんだよ」

「ふうん……」


 人の出入りを制限する事も出来ないので、ああいった犯罪者も入り込んでしまうという事か。さっきの奴はご苦労さんってところだけど。


「ねえ、おじさん。北の国で仕事を探すなら、どこが一番いいか知ってる?」

「仕事を探しに来たのかい。だったら、そこの通りをまっすぐに進んだ先にある牝鹿亭って店に行って、店員に聞くのが一番だ。本日のおすすめ定食を頼めば、勝手にべらべら教えてくれるぜ」

「本日のおすすめね。ありがとう」


 屋台のおじさんに礼を言って、牝鹿亭を目指す。通りをまっすぐ進んだところって言っていたっけ。


 屋台が並ぶ通りから一本表に出たところにある通りに出る。ここは店舗が建ち並ぶ場所だ。目当ての牝鹿亭はすぐに見つかった。並んでる人はいないけど、大きな店で繁盛しているみたい。


「いらっしゃいませー」


 扉を開けて中に入ると、店員さんの元気な声。一人だと告げると、すぐに席に案内してくれた。


 メニューを見ないまま、座ってすぐに今日のおすすめを頼むと、店員さんがにかっと笑って厨房に声をかける。


 殆ど待つ事もなく、料理の乗ったトレイがテーブルに届けられた。


「はいよ。あんた、旅の人かい? 北に行くならダガード王国がおすすめだよ。あそこは国がでかい上に、新しい王様が国を良くしてくれてるからね。復興の人手も募ってるから、仕事もたくさんある。魔大陸の目と鼻の先だけど、神子様が邪神を封印してくださったから、もう安心さ」

「そうなんだ。ありがとう」


 早速欲しい情報が手に入って助かる。そして本日のおすすめは川魚の料理。淡泊な身に甘辛いソースがよく合う。お値段も手頃な五百ブール。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る