第7話 不用品はお金に換えよう

 大通りに面した店は、ガラスを使って店の中がよく見えるようになってる。そしてそのガラスに、店名やら扱ってる品なんかがそのまま描かれてた。


 あ、ジネンの店みっけ。


 扉を開けて中に入る。店員さんの若い女性がすぐにこちらに気づいた。


「いらっしゃいませ」


 そう言ったはいいけど、顔に「何しに来たんだろう?」って書いてあるよ! 悪かったね、フードかぶった怪しい旅装束の女で!


 とりあえず、手持ちの古着を売りたい、マーシルの店の人にここを紹介されたって言ったら、胡散臭そうに奥へ行った。人を見た目で判断するのはよくないぞー。


 さっきの店員が奥から連れてきたのは、鼻先に眼鏡をかけた痩せぎすのおじさん。彼も私をじろじろ見た後、カウンターに売るものを乗せてみろと言ってきた。


「まったくマーシルのやつ、うちの客筋をなんだと思ってるんだ」


 なんかぶつくさ言ってるけど、とりあえず亜空間収納から大量のドレスを出したら、二人して驚いていた。店員の方なんか、腰抜かしてるよ。


「こ、これを売ると?」

「ええ、そう。買い取ってもらえないようなら、別の街に持って行くからいいんだけど」

「いや! ま、待ってくれ! うちで全部買い取る!!」


 慌てた様子でそう言うので、買い取ってもらえるならまーいっかーと思って査定が出るまで待つ。


 これで安く買いたたかれたら、どうしよう? 一応、封印の旅の際には貨幣価値とか色々教えてもらったから、このドレスのおおよその価値も知ってるんだけど。


 でも、こういったドレスってオーダーメイドだから、体型があわないとそのまま着るのは厳しいんだよね……


 あと、旅の時に聞いた話だけど、こういった古着のドレスを一番高値で買い取るのは、色町のお姉さんなんだって。彼女達なら、ドレスの寸法を直すお針子の伝手もあるから、少々サイズが合わなくても買うそうな。


 一から仕立てるより古着を買って手直しした方が安く上がるし、仕立てのいいドレスを作れる店には、そういったお姉さん達は行けないからなんだって。そして仕立てのいいドレスを着ていると、お金持ちの客に受けがいいらしい。


 そんな噂をしていたのは、封印の旅に同行していた兵士達だ。彼等も、そうした街のお姉さんのところに通っていたんだろうなあ……何も言うまい。


 そんな事を考えていたら、査定が終わってた。


「こちらで買い取ると、このくらいなんですが……」


 先程とは打って変わって下手に出てくる店主。彼が提示した金額は、八千万ブール。大体こちらの想定内だった。


 仕立てた時はもっとかかっていたんだろうけど、さすがにその値段では売れないでしょ。


 とはいえ、いい値段つけてくれたなあ。さっき、別の街に持って行ってもいいって言ったのが効いたかな?


「では、それで」

「あ、ありがとうございます」


 こんなドレス、この先着る機会なんてないし、ずっと持ってるのは気分が悪い。

 一応一国の王子妃が着ていたんだから、物はいいんだ。生地だってかなり上等なものだし、レースやボタンもそう。ばらしても、結構いい値で売れるんじゃないかな。


 その辺りは店がどうにかする事だから、どうでもいいか。私は売却代金が入った布製の袋をもらって店を出た。

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