第18話 始まり

昔昔、天界では天主と天使だけが暮らしていた。基本的に皆同じように優しく清く、穏やかな天界だったが、突然変異の天使が一人だけいた。その天使はとても力が強く、それまで天界には存在していなかった「破壊」というものを生み出した。天使達は恐れた。天界は「破壊」されてしまうのではないか、天界で初めて「悪」が存在してしまった、と。

しかし、その天使は「悪」ではなかった。ただ少し、力が強かっただけ…。心は皆と同じように清く正しかったのに、その天使は「悪」だと囁かれ、偏見されるばかりであった。

そんな可愛そうな天使にも、2人の友人がいた。「悪」ではないと信じてくれる、たった2人の友人だった。1人は可愛そうな天使のことを愛していた。救いたがった。しかし、どうすればいいのか分からなかった。


そんなある日、3人は悲しい光景を目にした。死んでしまった体を名残惜しむ魂を、天使が「寿命だから」と言って転生させてしまっているところだった。この強引な転生に、天使は誰も反対しなかった。むしろ、当たり前のような顔をしていた。「寿命に逆らってはいけない」と、頑なに規則を守っていた。

「あんなの、ひどいわ。強引に転生させて、魂が幸せに生まれ変われる訳がないじゃない。」

可愛そうな天使は言った。その友人で、彼女を愛していた天使は、強制転生の天使の方がよっぽど「悪」だと思った。そして、ふと思った。

(周りが「悪」であれば、それに埋もれてこの子は「悪」だと言われないのではないか。)

そう思った天使はすぐさま行動に出た。そして、天主の息子の友人だと言い、天主アダムに近づくと良心をもぎ取った…。


天界で本当に「悪」が誕生した瞬間だった。


良心をもぎ取られた天主アダムは天主イヴと口論になり、そして天主アダムを支持する悪魔という存在が生まれた。悪魔の中でも時を操る時魔が力を握る。そのトップには天主の息子、その次に全ての元凶である天主の息子の友人がついた。可愛そうな天使は2人のサポートに入る、戦闘悪魔となった。


時魔のトップの名をA-001、またの名をヒカル

ナンバーツーの名をA-002、またの名をニコ

トップ2をサポートする戦闘悪魔の名をカサメ

と言った。


3人は後に魔王となった天主アダムに命ぜられ、対天使戦に備えるため、時魔たちの命である魔黒石を集めに人間界へと赴く。


天使では無くなった天界に住まうものは、魔黒石に頼ってしか生きられなくなり、奪われると消滅していった。堕天使にすら戻れなくなっていた。魔黒石によって魂を削られていたのは時魔も同じだった。魂と同時に良心も徐々に削られ、躊躇なく人間を襲うようになった。こうして誰も得をしない負のスパイラルに、天界と人間界は陥った。


全てを生み出したのは「悪」ではなく、1人の天使の、可愛そうな天使への愛だった…。

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