第17話 裏幕と思惑
「……!ニコが!?黒幕って!」
「あなたたちは早くその人間を助けに行きなさい。」
イヴ様は険しい顔をして言った。美人が怒ると怖いと言うが、怖いというレベルではない。
あたしはあまり分かっていなかった。ニコが黒幕だと言ったところで、たいして凶暴なわけではないだろうとタカをくくっていた。
ニコは凶暴化していた。
その場にうずくまるヨウは、過去を操られているようで、泣いていた。
「……ヨウ!」
カサメが驚きと悲しみを声にすると、ニコは振り向いた。
「え…」
声を上げていたのはあたしだった。その時魔に見覚えがあった。全てを凍せてしまいそうな漆黒の瞳、目があった時の重圧感。
「…あれ、前に会ったことある……?」
あたしの呟きが聞こえてのことなのか、ニコはあたしにニマリと笑った。背筋に寒気が走った。得意げなその顔は、悪を悪とも思ってい無さそうだった。
「やあ、カサメ。なんで戻ってきたんだ?」
「なんでって…。私が聞きたいわよ!なんでこんなことをしているの……!」
ニコは至極不思議そうな顔をした。
「だって人の魂を喰らうのが悪魔の本能じゃないか。」
そう笑ったニコは完全な悪魔だった。非情で冷酷な黒い生き物だった。
「…!とにかくやめてよ!」
泣きそうなカサメの顔を見て、一瞬、悲しそうにカサメを見つめたニコだったが、首を振って小さく言った。
「それは…。いくらカサメのためでもできない。もうここまで来たら止まれないんだ。」
またヨウに向き直り、時を操っている手に力を加えた。それに反比例して悲鳴が小さくなっていく。
「魂がもう半分を切っている!…なんとかしなければ…!」
ヒカルが動き始めた。ニコの背後から蹴りをいれようとするが、ダメだった。もはや時魔ではないヒカルのスピードは人間と同じくらいだった。
「なんでアダム様を操ったりしたの!?」
そう質問しながら、あたしも攻撃しようとした。しかし、底の見えない闇のような瞳にただならぬ圧を感じ、その場で金縛りにあった。
「…なんでって、僕はいつでも一つのことのために動いている。他ならぬカサメのためだ。少しでも幸せに過ごして欲しいから…!」
その声は教会のオルゴールのように、優しく深く響いた。目を閉じて、誇りを持って話していた。しかし、
「…僕は色んな事をしたんだ。天主の1人から良心をもぎ取って悪魔という存在を作ったのもその一つ。それなのに、こんなに尽くして、こんなに愛しているのに…!」
葉を食いしばって最大限に力を加え始めた。ヨウから魂を奪っている黒い影はより一層濃くなった。
「カサメは僕を愛してはくれない!」
吠えるように叫びながら、ニコは涙を流した。もう全てが黒いニコだったのに、涙だけは美しく透き通っていた。
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