新たな年へ駆け抜けて

龍々山ロボとみ

新たな年へ駆け抜けて

※※※ interval ※※※




 正月一日になった。

 新たな年だ。

 明けましておめでとう、だな。


「あけおめ!!」

「おう、おめでとう」


 ハルカは新年早々元気だな。

 とても午前三時とは思えない声だ。

 うるさすぎるくらいだ。


「あれ、なんか眠そうじゃない?」

「眠いよ。今三時だぞ。なんでお前はそんなに元気なんだ」


 隣からずっと笑い声が聞こえていたし、灯りも点いたままだった。

 こっちが紅白見て行く年来る年見ている間、ハルカの家では年越しバラエティとやらを見ていたらしい。

 新年に合わせて「あけましておめでとう」のメールを送ったら、「あけおめ!今年は大脱獄だよ!」と訳の分からないメールを返されたのだ。


「いやあ、ずっと大笑いしてたから、眠気なんて飛んじゃった!」

「つまり、毎年の如くか」


 毎年毎年、あのバラエティもよくネタが続くものだ。

 そんなに面白いのかね、あれ。


「それよりタクマ!」

「ん?」

「なにか、言うことあるんじゃない?」


 そう言って、ドヤ顔を見せ付けてくる。

 まあ、言わんとすることは分かる。

 それで時間が掛かるだろうから、わざわざハルカの家のリビングで待たせてもらってたわけだし。


「まあ、なんだよ」

「うん」

「振り袖、似合ってるな」

「……! ふふん、そうでしょー?」

「おう」


 新年らしく、鮮やかな紅色の生地。

 白抜きで描かれているのは牡丹の花かな?

 ハルカにしては渋い柄だが、多分用意したのは小母さんなんだろうな。


 わざわざレンタル品を借りてきて、小母さんに着付けてもらったようだ。

 そこまでせんでも、とは思うんだが。


「~~~~♪」

「……」


 ……ハルカが嬉しそうなので良しとしよう。

 そうしよう。


「さ、混む前に初詣に行こうぜ」

「おー!」


 上着を着て玄関に。

 下駄まで用意してるくれるんだな、レンタル屋さんって。


「それじゃあ小母さん、行ってきます」

「行ってきまーす!」

「はーい、気を付けてねー」



 まだ真っ暗な住宅街を、街頭の明かりを頼りに並んで歩く。

 空気は冷たく吐く息は白い。

 空はよく晴れている。

 初日の出は見れそうかな?

 見に行く前に寝てしまいそうだけど。


「タクマ、タクマ」

「なんだー?」

「手、繋ご?」

「え」


 今から?


「そういうのって、神社着いてから『わあ、混んでるね、はぐれないようにしようよ』つってから繋ぐもんじゃないの?」

「漫画の読みすぎよ。だいたい、あの神社そこまで人来ないでしょ」

「それもそうだけど」


 一応毎年二人で初詣行ってるのに、相変わらず言うことキツいな。


「ほら、早く。彼女の言うことが聞けないの?」

「あ、おう」

「よしよし、素直で宜しい」


 キュッと指を絡めてくる。

 えっ、なに、そうやって繋ぐの?

 これであの神社に行くの?


「えへへー」

「……」


 指全部絡められて、今更外せない。

 これ、物凄く恥ずかしいやつなんじゃねえの?




 ――神主の爺ちゃんに何言われるか分かんねえなあ。




「着いたー」

「おう」


 地元の神社。

 夏祭りとか秋の奉納際とか、何か行事があるときはここで行われている。

 勿論正月の今日も、参拝客のためにこんな時間から灯りを点けてくれている。


「取り敢えず賽銭入れようか」

「そうねー」


 賽銭箱の前に来る。

 どうでもいいけど、さっきすれ違ったの中学の時の後輩だったな。

 そんなに親しくなかったけど、俺とハルカが手を繋いでいるのを見てサムズアップしてくるあたり、先輩とセンスが変わらん。


「お財布どこだっけ」

「えっと……」


 あと、こっそり写真撮ってたな。

 なんだ。

 学校で言い触らすつもりか。

 止めろよ。

 まだ知った顔は一杯いるから、滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。


 もし言い触らしてたら、覚えてろよ。

 今度会ったときにまた制服のスカート引っ張ってやる。


「あった。……それ」


 アホなこと考えてたら、財布を見つけたようだ、

 ハルカが百円放り込んだ。

 俺も同じように百円。


「…………」

「…………」


 黙って手を合わせる。

 去年は、試合で勝てますように、ってお願いしたんだったか。

 なら、今年は――。


「……よし」

「あ、終わった?」

「おう」

「今年はなんてお願いしたの?」


 ハルカが聞いてくる。

 俺は素直に答えることにした。


「今年中に、本気の先輩に勝ちたいなって」

「ふーん。ま、タクマなら出来るわよ」

「……一応聞くけど」

「タクマだからよ」

「……」


 被せるように答えやがって。

 お前、聞かれるの分かって言っただろ。


「それに、一回勝ってるんだから楽勝でしょ!」

「いや、まあ」


 あれだけ振り絞ってようやく互角だからなあ。

 もっと頑張らないと。


「それと、タクマって、走ってるときよく叫ぶじゃない」

「おう」

「あれ止めたら良いんじゃないの?」

「……」


 いきなり何を言い出すかと思えば。


「バッカお前、声出さないと体動かないだろ?」

「体力の無駄な気がするわ」

「無駄じゃない。アレは必要な事だ」

「……ふーん?」


 ハルカが首を傾げるが、俺だって譲れないぞ。

 というか。


「ハルカは何をお願いしたんだよ」

「私?」


 去年は教えてくれなかったが。

 そんなことを言うなら今年は教えてもらうぞ。


「まあいいけど。えっとね……」

「……」


 うん?

 なんでそんな恥ずかしそうなんだ。


「タクマが怪我しませんようにー、っていうのと」

「……お、おう」


 俺の事かよ。

 そんでまだあるのか?


「今年のクリスマスはー、……二人っきりの夜を過ごしたいなー、って」

「…………おい」


 そういうの、止めろよ。


 ……顔から火が出るだろうが。


 いや、待て、既に出てるんじゃないか、ひょっとして。

 顔、無茶苦茶熱くなってきた。

 気温こんなに低いのに。

 相変わらず息白いのに。


「やーっと、付き合おうって言ってくれたしさ」

「いや、言ったけど」

「ちなみに去年は、タクマの彼女になれますようにってお願いしたからね」

「え、マジで?」


 そんな事お願いしてたの、ハルカ?


「去年は叶ったから、今年もね」

「…………」

「なによ、彼女の言うことが聞けないの?」

「…………」


 それは、流石に……。


「聞、け、な、い、の?」

「……善処、します」


 善処って、なにをすれば良いのだろうか?

 分からんけど、納得してくれたから良しとしよう。


 おい、神主のジッチャン。

 陰からこっそり覗いて笑ってんじゃねえぞ。

 次会ったら覚えてろよ。

 肩揉むときに思いっ切り痛くしてやるからな。




 ――なお、帰る前に引いた御神籤は二人とも吉だった。リアクションに困る。



 一月四日。

 学校だ。


 数日ぶりの部活だな。

 そういえば、走り締めって言ってたのに、年末は三十日まで練習だったな。

 締めてねえじゃん、って、セイヤもリョウタも笑ってた。


「よ、タクマ、あけおめ」

「おう、リョウタか、おめでとう」


 噂をすれば。


「箱根駅伝見たか? 今年も凄かったぞ!」

「おう、一応見たよ」


 駅伝部として絶対に見とけって言ったの、お前じゃん。


「そうか。あと、正月はお楽しみだったみたいだな」

「……誰から聞いた」

「妹の友人。たまたま神社で会ったって言ってたぞ」

「……そうか」


 アイツ、次見かけたら絶対にしばく。

 ポニーテール引っ張って眼鏡も取り上げだ。


「ま、ま、良いじゃんか」

「……痛いから肩を叩くな」

「ハルカちゃんも楽しそうにしてたみたいだし」


 そういやあリョウタって、夏の合宿で部活辞めかけたとき、ハルカに説得されたんだっけか。

 それ以来、なんとなくハルカに頭が上がらなくなってるんだな。


「大切にしてやれよー?」

「……おう」


 言われるまでもない。


 大切な彼女だってえの。


「おおい、タクマにリョウタ、明けましておめでとう」

「おう、セイヤか、あけおめ」

「今年も宜しくな」

「よろしくよろしく、……ん? タクマ、ランシュー(靴)変えたのか」


 おっと、流石にセイヤは目敏いな。


「お年玉貰ったからな。一日の内に買いにいった」

「ハルカちゃんとか?」

「……なんでそれも知ってるんだ」

「いや、適当に言っただけだよ? まさか本当とは……!」


 この野郎。


「まあまあ落ち着けよ。それより、足には馴染ませたのか?」

「昨日一昨日と少し走っただけだな」

「皆まだ来てないし、三人で軽く走っとこうぜ」

「そうするか」




 シューズの紐を締め直す。

 体を軽く解してから、三人で校門前に並ぶ。

 学校周回コースだ。


「準備いいか?」

「おう」

「オッケーだ」

「なら、……行くぞ!」


 掛け声とともに。

 駆け出す。前へ。


 今年も俺は。

 走り続ける。


 駆ける。


 駆ける。


 駆け抜ける。



 新たな年へ、駆け抜けていく。




※※※ restart ※※※

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新たな年へ駆け抜けて 龍々山ロボとみ @Robo_dirays

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