【教訓の二 決して他人にものを頼むな】
第5話
サウンズ・ヒルの外れに事務所が建っている。看板には、「リディロ銀行事務所」と簡素な字体で書かれているだけでだった。
事務所の中には、おおよそ銀行員に似つかわしくない武器を携帯した男たちが、何人も待機していた。彼らを囲うように中心に座っている男は、ここの家主であるリディロであった。彼は先ほど伝書用のタカが電報を持ち帰り、その報告を読み終わった所であった。
「どうやら報告では、例の娘が賞金稼ぎと一緒に、この付近まで近づいているらしいそうだ」
取り巻きの男たちは、何も口を挟まなかった。男は話を続ける。
「娘は、かなりの値打ちが付いていてね。暴れるからって傷物なんかにするなよ。彼女は貴重な存在だからな」
取り巻きの男の一人が言った。
「奴らがここに来るのは分かりました。ですが、どこで確保するんです?」
「砂漠を横断するはずだ。列車だと足に着くからな。賞金稼ぎは馬鹿じゃない。娘が遺産にたどり着くのを知っている。だから身の安全には細心の注意を払って列車より横断を選ぶはずだ」
取り巻きの頷きを見ながらリディロは話を続けた。
「砂漠を出るところで、待機していろ。そこで連中を確保するんだ」
イングリッシュ・マーシャの遺産を求めて賞金稼ぎのノーバディにイングリッシュ・マーシャの娘と自称する少女ハニー・コルダはボブリカットの町を出て既に2日が経過していた。
この2日の間にコルダは後続の馬に引きずられながら腕には縄が掛けられていた。手綱を握れないほどではないが、それでも不自由を感じるように結ばれていた。
そうこうする内にノーバディとコルダは第一の目的の場所にたどり着いた。
「ここからが、正念場だよ」
ここから南に渡る際、覚悟を決めなくてはならないとノーバディは思った。眼下に見える古い橋を渡ったら最後、2、3日は砂漠を横断しなければならない。ノーバディだけなら大きな問題にはならないが、今回はコルダがいるので慎重にならなくてはならなかった。
最初に捕まったときの罵声に比べればコルダは、だんまりを決め込むかのように静かになっていた。
「思いのほか静かにしてくれて、ありがたいね」
「アンタみたいなアバズレは道端で禿げたかのエサになっちまえばいいんだ!」
コルダの怒声がノーバディの後ろから聞こえてきた。
「吠えずらかくなよクソガキが。てめえが依頼内容じゃなけりゃあなあ近くの奴隷売りにでも渡してやるよ。そうされないだけでも、ありがたく思いな。そもそもお前ペキンパーの何なんだ?」
あえてノーバディは、少女娼婦とは言わなかった。コルダがどういった反応するのか楽しんで意地の悪い質問をぶつけたのだ。コルダは、ノーバディの質問に黙り込んでしまった。ノーバディは笑った。
「はは、言いたくなきゃいいんだけどな」
会話が途切れると、また移動をし始めた。とにかくこの辺りは暑い。昔、ノーバディが、まだ少女と呼べるような時は、この辺り一帯には村があった。たいして裕福でもないような所であったが日々の生活を大切にしているような連中であった。だが、ここ数年で鉄道が開通すると今まで流通を頼りに生きていた村々の連中は皆新しい居場所を見つけるために旅立ってしまった。
当時ノーバディがお世話にもなった村の連中がどうなったかは知らない。今でも覚えているが子供のころの彼女にとって、ここの村の連中は素直に良い人たちであった。
彼らは新しい土地を見つけられたのだろうか。ノーバディは歩いている、もう何もない村の跡地に足を踏み入れながらに思った。
ノーバディが過去の思い出に浸ってしばらくするとコルダの方が少しそわそわし始めた。ノーバディは不審に思ったが特に声を掛けずに放っておいた、それも少しするとコルダの口から、その理由が出始めてきた。
「ねえ・・・・・・トイレいきたいんだけど・・・・・・」
「その辺でしろ」
ノーバディのそっけない返答にコルダは怒りを露わにした。
「アンタ、か弱い女の子に、こんな砂漠でしろって言うの!?神経疑うわ」
「アタシも女だ。気にする必要もないだろう。それにお前、自分の立場解ってんのか。アンタは三日後には、どこぞの物好きに売られるのかも知れないのに。他人事とは言え涙が出てくるよ」
「ご親切に。でもアンタ、あたしがトイレから逃げだそうとしたら後ろから撃つでしょ?」
「ああ、死なない程度にはな」
ノーバディが言い切った後は、互いにまた黙り始めてしまったが、コルダはいつまで経っても体をモジモジしていたので、ノーバディは呆れて言った。
「だあ~分かった、分かった。行ってこい!」
ノーバディは、そう言うと少女から目をそらして馬ごと逆に向けた。
「こんな所で、するのなんて嫌だわ。この先に岩場のある地帯があったわね。だからそこが良いわ。そこなら落ち着くしアタシも黙るわ」
「はいはい・・・・・・分かりましたよ・・・・・・」
ノーバディは少女を馬から降ろして縄を付けて、今度こそ後ろ向きになった。背を向けながらノーバディは言った。
「アタシがこうしてる間に済ませな。せいぜい数分しか向けてねえけどな」
「・・・・・・感謝するわ」
コルダがボソッと呟くと、いそいそと山岳のほうへ向けて歩き出していった。
コルダは、まずは山岳に生えている草葉の影に隠れると彼女の着ていた衣服から小さな拳銃の部品を取り出していた。”ベルスタア”は、あの女が持っているので使うことは出来ないが、それでも小さな組み立て式の拳銃くらい持ち歩いていた。とりあえず何としても、あの女の持ってる”ベルスタア”を回収しなければならない。コルダは急いで小型の部品を組み立てていった。そして出来上がった拳銃を服の内側に仕舞い込みノーバディの所の戻っていった。
「やけに遅かったじゃないか」
戻ってくるとノーバディは、下品な笑みを浮かべながら言った。この女は心底ホントに下品で嫌な奴とコルダは思った。品性の欠片もない。
「アンタそういった下品なことしか言えないえないわけ」
「こいつは失礼。いつまで経っても戻ってこないもんだから少し不思議と思ってね」
コルダは内心、胸をギュっと締め上げられるような感覚になった。まさかこの女感づいたのか。そう思わざるえなかった。
「終わったんなら、すぐに出発しようぜ。ここから先は、中々に厳しいからな」
ノーバディが馬を走らせて砂漠に入って行くための橋に向かって行った。ノーバディに続く形でコルダも付いていった。眼下に捉える、この橋を渡り砂漠を横断して乗り切れば何とかペキンパーのとこまでの算段が整う。ここからは根気が必要である。砂漠を渡るのに必要な水分であり、適度な食料そして熱を防ぐ方法であった。彼女は、まだ慣れているので問題はないが、問題はコルダの方であった。たぶん、初めての砂漠横断だろう。横断せずに列車の方法もあったが、数日のロスになるし。ペキンパーの奴に足が着くってものである。万が一に備え、そんな危険な真似は出来なかった。そしてペキンパーもそしてガニコの野郎もイングリッシュ・マーシャの遺産を狙ってやがる。「クソッ!」とノーバディは悪態を付いた。絶対やるもんかよ。依頼の金もマーシャの遺産やら全て手に入れるのはアタシだ!
そう思っている内に砂漠の入り口である桟橋までたどり着いた。何年も使っていないのだろう。橋はボロボロに朽ち果てて不安定であり、一人ずつ渡らないと今にも壊れておかしくなかった。橋の下は沼になっており異世界への入り口のようにも見えた。
「こりゃあ・・・・・・あちこちガタが来てるな。仕方ない、とりあえず一人ずつ渡るぞ」
そう言ってノーバディはコルダを先に行かせるように急かした。彼女は
緊張な眼差しをしていたが、それでも彼女は意を決して進んでいった。
「オイ、おせーぞ!そんなんじゃ日が暮れちまうぞ。砂漠の夜は堪えるんだ。さあ行け、行け!」
「分かってるわよ。ちょっと慣れてないだけよ・・・・・・」
「よく吠えるじゃねえか。安心したぞ」
互いに言い争っている間にコルダは橋を渡りきった。
「よっしゃ。よくやったぞ。少し待ってな」
ノーバディがコルダにも聞こえるくらいに大声で張り上げると彼女も橋を渡り始めた。
彼女が慎重に橋を渡っているのを見て内心コルダは笑いが止まらなかった。この女が今から無様な姿を晒すのを想像すると笑いが止まらないからである。
橋を中間まで渡ったノーバディにコルダは声を掛けた。
「この下は沼になってるけど、落ちたらどうなるかしらねぇ・・・・・・ノーバディ」
コルダの突然な声掛けに嫌な予感を感知した。
「何が言いたい?」
「そのままの意味よ。アンタが、そのまま沼に落ちたらって話よ」
「笑えねえ冗談だ。ぶち殺すぞクソガキがッ」
ノーバディは怒声にコルダはそれ以上に声を張り上げた。
「おい!賞金稼ぎのノロマ。あんたが呑気に橋を渡ってる間あたしが何もしないとでも思ったのかい?」
そういうとコルダはコートからおもむろに隠していた小型銃を取り出した。
「てってめえ、いつのまに!?」
「それじゃ、さよならだ。名無しの凄腕ガンマンさん」
コルダは、小型の拳銃で頼りない橋のロープに構え発砲した。ロープがいとも簡単に切れるとノーバディと彼女の愛馬は、そのまま下の沼に落ちていった。
「畜生!」とノーバディの声だけが、こだましていった。
「悪いけど、あたしに悪さをした罰ね。せいぜい苦しんで死になさい」
沼に落ちてもノーバディはコルダへの罵倒を止めなかった。
「この、クソガキがッ!覚えてやがれ」
ノーバディが、言い終わる前にはコルダは馬をつれて砂漠の方向へ向かって行った。
ノーバディが向こう岸まで登り上がるのには、かなり骨が折れた。かなり危険な沼かと思っていたが、どうやら大事には至らなかった。馬も消耗はしてはいたが奇跡的に怪我もなく少し休めば、このまま砂漠の横断は続けられそうであるとノーバディは思った。あのクソガキに落とされて、あれから半日近くは経っていた。幸いクソガキは、食料も水も持っていない。はっきり言ってそんな状態で、この砂漠を渡りきるのは無謀に近かった。
それに、あの砂漠を予備知識なしで渡るなんて自殺もいいとこである。そしてあのガキもこの砂漠を渡る知識は持ち合わせてはいないだろう。せいぜい途中でくたばるだろう。今から行けば、まだ追いつける。だが問題は、あのガキがくたばってしまう問題があった。何せ、ここは普段交通で使わないような場所であり、移動は常に列車であった。だがペキンパーの追っての事も考えてあえて馬を選んだのだ。ラクダもあるが、時間はあまり残されていない。愛馬に掛かる負担は増えるが、ここは耐えてもらうしかない。マーシャの遺産はアタシのもんだ。誰にも渡さない。
ノーバディがコルダを追いかけてから、わずか1日足らずで彼女を見つけた。ひどくふらついた足取りで当てもなく歩いているようであった。しかし何よりノーバディを腹立たせたのは、コルダは馬をつれていなかったのだった。
「クソッ!」
ノーバディは、悪態をついた。
「おい、クソガキッ!アタシの馬はどうした?」
ノーバディの怒声に対しコルダは、ひどく枯れた声で答えたが、水分がなくなってしまったのだろう、声をうまく発することが出来なかった。
「馬はどうしたんだと聞いてるんだッ!もし答えないのなら依頼主でも構わねえ。ぶち殺してやる」
そうノーバディは言うとコルダはようやく口を発した。
「馬は死んだわ。途中で倒れて動かなくなってしまったの。だから、撃ち殺したわ」
しわがれた乾いた声でコルダは言った。彼女の声を被せるようにノーバディは怒り狂った。ノーバディの言葉に彼女は反応はなく黙ったままであった。
「いま、ここでてめえを殺してやる。てめえはアタシの家族を殺しやがった。ペキンパーの女だか何だかしらねえが、この際どうでもいい、ぶち殺す!」
おもむろにノーバディがコルトを取り出し彼女の顔に銃口を合わせた。引き金を引こうとしたときに彼女は思いとどまり銃をホルスターに戻した。
「いま殺そうと思ったが、少し考えた。普通には殺さねえ・・・・・・。アタシの馬を殺した方法と同じやり方で殺してやる!てめえの死に様を拝んでやるよ」
ノーバディの言葉にコルダは黙ったままである。
「ああ・・・・・・そうかい。アンタがそうやって黙り込むのならこっちにも考えがある。アンタが死ぬまでの水先案内人になってやらあ!てめえの死体をそのままペキンパーに見せて金をいただくさ」
そう言うと馬に乗ったノーバディが、少しコルダから離れて彼女を眺めていた。
「アタシはこうするだけ。お前を死ぬまで、ずっと見てるだけさ。さあ、砂漠を抜けるのは、まだまだ先だぞ。歩け歩け!」
ノーバディは、そう言って銃を空に向かって発砲した。その音を聞いてコルダはトボトボと歩き始めた。途中、喉が乾いているだろうコルダを横目にノーバディは水をおいしそうに飲みながら挑発を掛けたが、コルダは何も反応を示さなかった。コルダと歩き続けてから半日は近くは経っていた。
コルダは歩き続けた。途方もない、いま彼女が、どのくらい歩きそしていま何処なのか知る由もなかった。ノーバディは、依然として離れた所からコルダを眺め続けていた。もう二日は経つだろうか、足取りは以前よりも増してふらつくようになり肌も乾燥し始めていた。
彼女を動かしているのは、もはや気迫という言葉しか表すことが出来なかった。内心、彼女の根性ぶりをまじかに見せられているノーバディは辟易していた。もっと早くに弱音を上げさせて殺す予定だったのにこれである。
そんな状況はさらに続き1日が過ぎた。脱水症状が進み疲労困憊なのは誰が見ても明らかだった。いつ死んでもおかしくはなかった。ノーバディは最後にコルダを挑発してみた。
「おいおい、もう降参かい?」
もう限界だろうとノーバディは思った。ここまで来れば、いまここで彼女の潮時かもしれないかと思ったからである。
「どうだい、苦しいだろう?命乞いなら今の内だぜ。今なら命だけは
助けてやるよ。どうだ悪くないだろうに」
ノーバディの問いにコルダは何も答えない。いや彼女は喉が乾いて声が出ないのかもしれない。強情ぱりなガキめ・・・・・・、そんなにまでアタシに助けは求めないようだった。それまでにこのガキの執念は相当なものであった。ああ・・・・・・ムカムカする。今すぐここで撃ち殺してもいいんだとノーバディは思った。
だが彼女の中でもこのガキの最後を見てやりたいとも思った。何だかんだこの砂漠も残り半日ほど耐えれば、抜けられることだろう。もしこのガキが砂漠を抜けたとしても殺すのはまたその時でいい。
コルダとノーバディが歩き続けてノーバディが後ろに続く形になって、かれこれ数時間が経った。コルダは遂に歩かず止まってしまいそのまま倒れてしまった。彼女の顔をよく見るとこの砂漠のの乾燥によって肌が荒れいた。ひどく真っ赤である。砂漠を越えるのはもう少しだというのに彼女の意識は消えかけていた。
「ほれ、まだくたばるなッ!砂漠を抜けるのはもう少しだぞガキ。ここで死ぬのかい?せめて砂漠を抜けてからアタシに殺させてくれよ」
ノーバディは続ける。もう死人も同然の少女に語り続ける。
「アンタには橋や馬の一件ががあるからな。まだまだ簡単に死なれちゃ困るのさ」
コルダは何も答えない。もう意識がないのか分からないが、彼女は、ただフラフラと前に進むだけであった。しかし彼女が歩いて数メートルの所で倒れた。
「ああ、残念だよ。せっかく後少しで抜けられたんだがね。残念だけどお開きさ。まあアンタはがんばったよ。ペキンパーの野郎にはいろいろ言い訳しとくがね。墓くらいは立ててやるさ。アタシはアンタの持ってた地図で優雅に英雄様の宝探しさ」
ノーバディはコルダの体を持ち上げて馬に括り付けようとした時、彼女の衣服から紙切れが落ちた。ノーバディが何気なくそれを拾うとそれはノーバディがデブリカットでガニコに貰ったイングリッシュ・マーシャの地図とは違うが、何かの場所を示すように印がありノーバディの地図と似たような物であった。
「おい、この地図は何なんだよ!死ぬ前に答えろ。この地図は一体何なんだ。ええ、このくそガキ!」
ノーバディは問いつめてコルダの声に耳を傾ける。彼女は何とかしゃべろうとしていたが、のどの渇きと乾燥が酷くうまくしゃべることが出来なかった。
「おい、くたばるな。この地図は何なんだ?答えるなら水や何でもやるよ。だから答えてくれ」
コルダの状態を察してノーバディはコルダに水を与えた。彼女の肌は砂漠の横断できれいな肌も酷く荒れていた。早急に手当をしないと命が危うかった。もうなりふり構ってられなかった。
彼女をノーバディが使っていた日陰用のコートを被せて水を与えて介抱した。
「・・・・・・示してる」
ノーバディが彼女を介抱して少し経ちついに言葉を発した。彼女の声は耳をキチンと傾けないと聞こえないくらいの大きさでコルダは答える。
「何だって!?もう一回だ」
ノーバディは続けてコルダに問いた。
「父さんの遺産・・・・・・」
「ああ、知ってる。それが目的なんだからな」
「これ本物・・・・・・。アンタの違う・・・・・・」
そういってコルダは、彼女が持っていた地図を指さした。
「遺産はアタシが必要・・・・・・。そういう仕組み・・・・・・なってる。殺したら意味ない・・・・・・」
遺産とコルダは、はっきりと言った。あの英雄イングリッシュ・マーシャの遺産だ。今までは、このガキの嘘と言う可能性もあったが、それも低いものであったであろう。かなり質の良い紙である。しかも年季も入っていやがる。ガキが事前に小細工するには限度があるだろう。それに交渉素材に使うアタシらを信用するために作った地図とも思えない。もしそうなら先にガキが先に地図をチラツかせてアタシに交渉する機会はあったはずであった。それをしなかったということはガキにとってこの地図は見られたくないものであった。確証はないが信憑性はあった。
「おお、ブラボー!良い娘だぜコルダ。じゃあ早速その地図で案内を頼もうじゃないか」
ノーバディは言ったが、しかしコルダは何も答えない。ただ無視している訳ではなく答える体力は使い果たしてしまったようであった。コルダの反応は何もなかった。
「おい、コルダ!答えてくれよ。なあ、この地図の詳細をさあ!アタシと一緒に探してくれよ。頼むぜ相棒!なあ、おいマジかよ」
いくらノーバディが答えたところで彼女は何も答えない。いや答えることが出来ないのであった。コルダは気絶と目覚めの両方を繰り返して続けていた。分かってはいたが、ひどい脱水症状であった。
ノーバディは持っていた水筒から彼女の肌に水滴を垂らし始めた。肌に付いた水滴を彼女の頬や唇にぴちゃぴちゃと濡らしていった。コルダが目を覚ます気配は一向になかった。こいつはひどい。重傷だ。早く砂漠を抜けて療養させないと手遅れになる。もしかしたらもう手遅れかもしれない。まだ死ぬんじゃねえぞ!ああ、ちくしょう。やっと天に恵まれたのかと思ったらこれだ。せっかくの英雄の遺産だ。ここで諦めるわけにはいかねえ。ああ頼むぜコルダあと少しの辛抱なんだよ。
ノーバディはコルダを馬に乗せてゆっくりと歩いた。このぺースでならなんとか夜までに着くはずであった。
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