ラスボスメーカー 第7話

花粉が飛び始めているのか最近目がかゆい。病院で検査をしたことはないがおそらく花粉症なんだろう。ただそこまでひどくはないから特に対策らしい対策はしていないが、そのうちしないといけないだろう。植村も花粉症なのか珍しくマスクをしていた。

「彩ちゃん花粉症なの?」

「うーん、わかんない、でもちょっと最近喉が痛くて。それでマスクしてるんだ。花粉症じゃなくて単純に風邪気味なだけだと思うよ。2人も大学はどう?楽しい?」

たしかに植村の声がいつもよりかすれていた。

「うん、楽しい楽しい。講義も面白いしさ。」

「いいじゃん、水原くんは?」

「ああ、楽しいよ。高校の授業より内容も専門的なものが多いしな。」

「そっかそっか。」

「植村は?」

「ん?私?私は、そうだね、楽しいは楽しいんだけど・・・。」

「なになに、なんかあったの?」

「いや、なにもないよ、ないんだけどね、もうちょっとすごいかと思ってたから、少しがっかりした。がっかりていうか、がっかりするのも変なんだけど。」

「珍しいな、大丈夫か?」

「ありがとう、大丈夫だよ。学校は楽しいは楽しいから心配しないで。ただ、もっとすごいイラスト描く人とか、そういう友達ができるかなーて思って期待してたんだけどあんまり周りにはいなくて。逆に私のイラスト見てみんなビックリしてた。あ、そうそう、ランサーとか見せたらほんとビックリしてたよ。」

植村の場合は母親がデザインの仕事をしている関係で中学生になる前からずっと絵を描いていたそうだ。早い頃にその方向で仕事をしていこう、となんとなく決めていたんだろう。そういう植村と比べるといまの学校の周りにいる友人は多分覚悟というか意識というか年季というかそういったものがまったくひとまわりもふたまわりも違っている、そういうことだろう。まして植村は俺たちと一緒にまがりなりにも作品を世に出している。そこまでに必要なプロセス、苦労、必要とされる技術を何度も経験してきている。そこから見ると物足りなく感じる、そういうことだろう。

「あれだね、じゃあ彩ちゃんがいろいろ教えてあげなきゃ、ていうことだね。」

「うん、そういうの最初は気が引けたんだけど、いまは結果的にそうなっちゃってるね。別に私もすごくないからなんかなーて思ってるけど、助けになってるみたいだからいいかな、て思ってる。」

植村はグラスに残った氷をストローでつつきながら言った。物足りない、つまらない、と思っているのが伝わって来る、がこれは俺と杉本の前だからの態度だろう、学校の友人の前では植村のことだからそんなことはしないしできない。

「つまんない、て顔だな。」

「え、もう、そうだよ。いじわるだなーもう。」

「植村、俺と杉本はサークルとか入ってないしさ、結構時間あるんだ。だからさ、ラスボスメーカー作る時間けっこうあるんだ。」

「そうそう、講義は大体夕方6時までには終わってるしね、けっこう暇。あ、バイト始めたらわかんないけど、まあそれでも多分大丈夫かなー。」

「あ、忘れてた、あれ作りかけだったね。」

「え、彩ちゃん忘れてたの?ひど!」

「あはは、ごめんごめん、だって4月入って学校始まってからからほんとドタバタしてたから、すっかり、ね。」

植村に笑顔が戻ってきた。今日はじめて笑った気がする。

「すっかりじゃないよ、ほんとに。俺と水原ちゃんはけっこう話してたんだからさ、あのマイルームのボスの色変えできるようになったんだし。」

「え、あれできるようになったの?すごい!」

「ああ、大学でもずっと作ってたんだ、で、最近できるようになった。大学だとさパソコン持っていってもなにも言われないからさ、最近毎日パソコン持っていって2人で開いた時間にも作ってるんだ。」

「ふふ、じゃあ相変わらず二人でぶつぶつ言いながら作ってるんだね。」

「ああ、杉本なんかこの前図書館の中でもぶつぶつ言いながらやるから注意されてたよ。」

あはは、と植村が笑った。「あれは仕方ないんだって。」と杉本が言う。

「彩ちゃんさ、まあ、学校は残念だったけど、いいじゃん、また一緒にゲーム作ろうよ、ていうか最初からそういう約束だったし。」

「ありがとう、杉本くん。」

植村が言った。

「でも、別に残念じゃないからね。そこは否定しとくよ。」

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