ラスボスメーカー 第5話
この日は植村がまとめてきてくれたラスボスメーカーのデザインについての話、そしてデザインから派生してゲームの詳細な仕様の話をしていた。
「じゃあ、全体的にドット絵チックにしてちょっと懐かしい感じのデザインで、てので大丈夫?」
「うん、いいんじゃないかな、俺は賛成。水原ちゃんは?」
「ああ、いいと思う。レトロな雰囲気でかわいいしな。」
「そうそう、それ狙ってるんだー。」
ドット絵の定義というのはよくわからないが、見た目としては点、つまりドットを並べて描かれていることがわかる絵、という感じだろうか。もちろんデジタルの写真やイラストを拡大してみたらドットが見えるが、それもドット絵じゃん、ということにはならない。それはドットが結果的に見えているだけだから。今の時代、ドット絵をあえて描くことはあまりないのだが一昔前のコンシューマーゲームだと、スペック的にどうしても結果的にドット絵、ということになってしまう時代があった。結果的に、だ。狙ってはいない。今はスペック的にはそんなことにはならないのだが、あえてドット絵としてイラストを仕上げることでレトロな印象をユーザに与える、という方法をとるゲームもいくつかある。ラスボスメーカーでもそれをやろう、というのが植村の狙いなわけだ。
「それでね、これは私のわがまま、なんだけど・・・、私ドット絵のマップ描きたいんだよね。」
「マップ?」
「そうマップ、ワールドマップかな。海とかも描きたいんだ。キャラクターとかも確かにドット絵で描くとすごくかわいくて好きなんだけど、ワールドマップをドット絵で描くとね、なんかもうほんとにドットだ、てわかって、ていうのかよくわからないんだけど、すごい懐かしい感じがでてきて好きなんだ。RPG、ていう感じがするんだよね。」
確かにワールドマップがドット絵になっているのを想像するとよりレトロな雰囲気が増すというのは同感だ。
「でも別にね、ゲームの中でマップページがあって自由に歩き回るとかなくていいんだ、ただ、どこかのページの背景とかそういうところで使えたらな、て思ってて。どうかな?」
「いいんじゃない、ドラクエみたいに歩き回るのはちょっと作るのにいろいろ時間かかりそうだからちょっとあれだけど、ワールドマップが背景で、その上にエリアとか、誰かの作ったダンジョンの選択画面がずらっと並んでるのは悪くないと思うなー。」
「まあ、そうだな。じゃあそうしようか、そのワールドマップの件はその方向でいこう。あとは・・・」
「あとはね、・・・えーっと、そうだ、ボスとかのイラストなんだけど、1種類でいこうかな、と思ってて。1種類なんだけど、ラスボスメーカーなわけだからさ、ユーザが自由に色を変えられたりていう仕様の方がいいかな、て思うんだ。でも正直言うと時間的に厳しいから、ていうのもあるんだけどね、ただ、それでもユーザが好みの色を指定できるのはこのゲームにあってると思うんだ。」
「なるほど。」
たしかにそれは悪くない方法だ。
ボスをつくる、というのがこのゲームの面白いポイントなわけでそこを盛り上げるためにも色を変えられる、というのは他の人と自分が作ったボスの差別化をするための方法としてありだ。ただ、正直なことをいうと色替え機能も提供しつつ、ボスの種類も多い方がいいわけだが、そのあたりは今回に限っては仕方がない面もあるようだ。
「そうだな、できれば複数種類欲しい、ていうのが本音だけど、他にも用意するものあるしな・・・。じゃあボスは1種類でいこうか。もうボスのイメージってなんか考えてる?」
「やっぱりラスボスなんだからドラゴンでしょ。」
植村が即答した。
「うーん・・・、ま、たしかにそうか、それの方がわかりやすいかもねー、でもそれでいくと色替えってあんまりバリエーションでなくない、大丈夫?」
「うーん、そうだね・・・。体とか角とか羽、あとは炎吐いてるようにしたりオーラみたいなのを描くようにするから、それを色替えできれば大丈夫じゃないかなー。えっとそうすると、体、角、羽、炎、オーラで5つ、色替えを10色用意するとしたら50通りのドラゴンはできるね。50じゃ少ない?」
植村が指で色替え箇所を数え、俺の方を向いて言った。
「いや、一旦大丈夫じゃないかな、もし足りなさそうだったら色を増やすようにしようか。あと色だけじゃなくて単純に迷彩柄とかそういうパターンでもありかもな。」
「ああ、そっか、それもありだね。」
「なあなあ水原ちゃん、その色替えのことなんだけどさ、どうやってつくる?彩ちゃんに全部のパターンの画像用意してもらうのはけっこう大変じゃない?」
「あ、うん、それはやれなくはないけど、けっこうしんどいかも・・・。」
ボス自体は1種類とはいえ、各パーツの色を替えたボスのイラストを用意していくのはけっこうな作業ボリュームだ。杉本の言っているのはそういうことだった。
「ああ、そうだな、あまり現実的じゃないな。どうしようかな・・・。」
「水原くん、パーツ渡すからさそれをプログラム上でうまいことできない?」
「パーツ?ドラゴンの体とかそういうこと?」
「うん、色を替えたパーツを書き出して用意しておくから、それをG-engineの中でガチャンガチャンて合体させてドラゴンにしてくれないかな、て。それでも同じでしょ?」
植村が言っているのはこういうことだ。
まず植村はドラゴンの一枚絵を描く。これはベースになるドラゴンだ。そして植村はこれを各部位にわけて書き出し作業をしていく。体、頭、羽、とかそういう具合だ。そしてバラバラになった各部位をG-engine上で読み込ませ、画像合成をすることで一体のドラゴンとしてユーザに見せる。こういう実装にしておくことで例えば新しい羽のパーツだけを植村が描き、新しいパターンとしてゲームに組み込めば羽の画像を追加しただけでユーザは新しいパーツを使ったドラゴンに変身させることができる。よくある着せ替え機能みたいなものだ。ユーザにとっては1枚絵だろうがパーツを合成して1体のドラゴンに見せていようが変わりはない。が、作る側からすると新しいモチーフのドラゴンを描くたびにすべてのパターンを網羅した画像を書き出していくのとパーツだけを描いて書き出していくのではその作業量たるや雲泥の差。どう考えても植村の提案の方でいくのがよさそうだった。
「そうだな、それでいこうか。そうしたらだいぶやりやすいな。ただ、ちょっとその機能を実装するのに時間がかかるかもしれないな、でもそれはなんとかするよ。それやらないと面白くならない気がするし。」
「ありがとう、じゃあボスはそれで大丈夫だね、よかった。あとは、そうだなー、UIかな。一旦ざっくりだけど考えてきたんだ、えっとたしかこの辺に・・・」
植村がノートをパラパラとめくった。
「これこれ。まずはタイトル画面ね、イラストはまだ考えてないけど、機能としてはスタートボタンとかがあればいいよね。」
「ああ、それで大丈夫だと思う。」
「うん、じゃあ次ね。次はマイルームなんだけど、これどうしようか迷ったんだけど自分の作ったボスをここにどーんと見せようかなと思ってて。あと、ボスが倒されている状況とか逆にボスが勝った情報とかね。」
「え、ボスがマイルームにいるの?うーん、どうなんだろ・・・ありな気もするけど・・・。」
杉本が言った。
「うん、そう私もそう思っててまだ悩んでるんだ。他に考えてみたのはね、単純にタイトルから遷移したらもうクエスト選択ページ、とかね。ボスを作るのは別ページで用意すればいいか、て思ったんだけど・・・。でもそうすると、ゲームのタイトルと完全にずれてくるよね、なんか。だからやっぱりマイルームは自分の作ったボスが見えて、それでそこから他のユーザが作ったボスを倒しに行く、ていう流れが自然かなーていう風に思ったんだ。」
杉本と同じようにはじめはマイルームにボスがいる、というのは違和感があったが、植村の意図を聞くとその方が自然な気がしてきた。
「じゃあマイルームはボスの部屋、みたいな感じってこと?」
「ん?あ、そっか、そうだね、その方が自然だね。そこまで考えてなかったけど、うん、それがいい気がする。」
「ゲーム始めたらボスの部屋ってどんなんだよ。」
杉本が笑いながら言った。
「ふふ、ね、私もそう思う。意味わかんないけど面白くなりそう。あ、そうそう、それでね、あんまりページ増やしてもな、て思ったから、このマイルームでボスのパラメーター設定とかすれば、て思ってたんだけどいいよね?てかパラメーター設定の機能あるよね?」
「ああ、パラメーター設定のページはいる。でもマイページか・・・。どれだけパラメーターを設定できるか、による気がするな。あんまり量が多いとマイページが大変なことになりそうだし。」
マイページはユーザがゲームにログインした時に必ず通る場所だ。だから自然とすべての情報がそこに集まりやすくなってくる。最新のお知らせや他のプレイヤーとの交流情報、そしてプレイ状況。他にも様々な情報がこのマイページに集約されてくる。そのマイページにパラメーターを設定できる機能を追加する、となると複雑になることが容易に想像できた。
「水原ちゃん、ボスってさ、どんなパラメーター用意する?」
「いや、まだ考えきれてない。杉本はなんか考えてた?」
「ふふふ。」
杉本が不敵に笑う。
「なんだよ気持ち悪いな。」
「俺昨日すごいこと思いついたんだよね。聞きたい?聞きたいっしょ?」
「はいはい、聞きたい聞きたい、聞きたいから早く言ってー。」
植村が少し面倒そうに言う。
「仕方ないなー。あのね、リズムゲームがいいと思うんだ。」
思いもしないまさかの提案だった。
「リズムゲーム?音ゲーてこと?」
「そうそう、まあ音ゲーのジャンルになるのかな?でも音楽はそこまで重要じゃなくて、リズムに合わせてボタンを押すだけていうゲームのイメージ。リズム天国って知ってる?」
「あ、そういうこと?なんとなくわかったかも。」
リズム天国はリズムに杉本が言っているようにリズムに合わせてボタンを押すだけのシンプルなゲームだ。シンプルだが、リズムに合わせて動くキャラクター、イラストのかわいさ、面白さと、音ゲーの面白さがうまくかみ合い幅広い年齢層に人気のあるゲームタイトルだ。
「わかった?そう、それでさ、まあ、リズム天国をやるわけだけど、そのリズムのパターンとかスピード、つまり難易度をユーザ自身がかえられるようにするんだ。もちろんプレイヤーレベルが高い人の方がより早いスピードに設定できたりするわけなんだけど、あれさ、早ければ難しいていうわけでもないっしょ?リズムに乗りやすい丁度いい早さだと逆に簡単だったりするじゃん、だからレベルが高いユーザが単純に有利とか強いボスを作れるとかそういうことにはならないような気がするんだ。でももちろんレベルが高いユーザはそれなりに結果的には強いボスを作るだろうけどね、ただ、レベルが低いユーザでも工夫次第で強いボスを作ることだってできるかなっていう。」
「それちょっと面白そう。」
「ああ、面白そうだな。」
「でしょでしょ、いやー昨日風呂入ってたときにふと思いついたんだよね。」
杉本が得意気に言う。ただ、いいアイデアなのはたしかだ。ラスボスを作る、という軸はあったがこれだけだとどうしてもパラメーターを高く設定されたボスが単純に強くなっていく、という方向にどうしてもいってしまう。もちろんそれはそれでより強い敵を倒したい、という欲求に応えることができるため必要だ。ただそれだけだといつしかただの作業ゲーになってしまう恐れもあって俺は懸念していた。ゲームの中でうまくギルド機能(ゲームの中での一定数のグループ。グループを作ることでゲームを有利に進めることができる、一般的にはギルドと呼ばれる。)を提供することでユーザ間でのコミュニケーションを促すことができればそういった方向によせていっても面白いゲームが出来上がるとは思う。ただ俺たちの場合はそこまで多くの機能を実装していくことに時間をとることが難しかった(今の状態でもおそらく時間的には足りなくなってきているくらいだ)。そうすると、ギルド機能もなく、ユーザ間でのコミュニケーションも少ないゲームに仕上がり、パラメーターに依存した作業ゲーとなっていく。はじめは珍しさから遊んでくれるユーザがいるかもしれないが、徐々に一人で作業をしているような感覚に陥ることが予想される。俺が悩んでいたのはそこだった。でもこの杉本の提案だとそれをうまく解決する可能性がありそうだった。
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