ラスボスメーカー 第4話

「せっくだからお茶してこうよ。」

植村の提案にとくに断る理由もないので俺たちは駅ナカのパン屋併設のカフェでお茶することにした。パン屋は駅ナカでも、というか駅の中にある店の中で一番目立つ場所にあって、駅正面入り口から丸見えの作りになっていた。関東の方ではよくあるチェーン店らしいが東海地方では珍しいお店、と、植村が言っていた。

「チェーン店なんだけどね、けっこうおいしいんだよね、ここのパン。これこれ、私はこの塩パン、てのが好きなんだ。おいしいよ。」

「へー。じゃあ俺はそれにしようかな。」

パンの数が多く、選びきれなかった俺は植村のいうおすすめを選んだ。見た目はいたって普通、コッペパンの様な形。

「俺はこれにしよーっと。」

杉本は甘そうなアップルパイのようなパン、いやパイか、を選んでいた。

好きなパンを選んで俺たちは店の奥にあるイートインスペースにいった。ガラス張りのイートインスペースは日がよく入り気持ちのいい空間になっていた。

「ね、こういうのもたまにはいいでしょ。多分、いいアイデアでてくるよ。」

一理あるな、と思った。リラックスした状態のときにアイデアがでる、というのは聞いたことがある。

「うま、これ。」

りんご半個くらいははいっているだろうぷっくら膨らんだアップルパイを頬張りながら杉本が言った。ぽろぽろこぼれているが、それがまたおいしそうだった。

「ちょっと、こぼれてるよ、杉本くん。」

文句を言いながら杉本にお手拭きを渡す植村。

「あ、ありがとう。いやいや、これうまいわ。また来ようっと。」

「そういえば本見つかったの?」

植村が俺の方を向いて言った。

「ああ、見つかった。見つかったっていうか、いい方法思いついたんだ。」

「あ、そうそう、さっき教えてくれなかったからさ、ちゃんと教えてよ。クラウドボックスでどうすんだよ。」

指先と口の周りについたアップルパイのかけらをふきながら杉本が言った。

「そのままだよ。クラウドボックスをラスボスメーカーのファイルサーバーにするんだ。」

「クラウドボックス?あのファイルを保存できるやつだよね、そんなことできるの?」

「ああ、できる。俺もさっきまで知らなかったんだけど、クラウドボックスは開発者向けにSDKが提供されていて、ちゃんと登録をすれば、クラウドボックス上にそのSDKを経由してファイルを追加したり、取得したりできるんだ。だから、ラスボスメーカーではその仕組みを使う。そうすると一番ネックだったサーバを立てるとかの作業がほぼなくなる。」

「なくなる?」

「ああ、なくなる。ほぼ、ていう感じかな。そこはもう少し本で調べた方がいいけど、おそらくなくなるはず。俺たちは普段Web上やスマホアプリでクラウドボックス使うときサーバのことなんて意識しないだろ?多分そういう感じにできるはずなんだ。」

「水原ちゃん、それ、つまり、G-engine上でSDKを入れて、それでクラウドボックスにファイルをアップロードするとか、ファイル一覧情報を取得するとかっていう処理を実装すれば終わり、ていうこと?」

「ああ、そのはず。だから実質、というかほとんどサーバのプログラムは書かなくていいはずなんだ。」

「ふーん・・・私途中からよくわかってないんだけど、いいことなの?」

コーヒーを飲みながら植村が言った。

「ああ、工数圧縮だね、だいぶ。あと、コストも多分相当抑えられたはず。」

「そういうことね、いいね、ばっちりじゃん、さすが水原くん。」

「なるほどなるほど、確かにそれならだいぶ早くできそうな気がする。いや、まさかクラウドボックスでそんなことできるなんて思わなかったなー。」

「うん、よく気付いたね、水原くん。」

「いや、違うよ、たまたま杉本がクラウドボックスの本読んでるの見て気付いただけだよ、ほんとたまたま。」

「じゃあ、俺の手柄?」

「それはないでしょー」

と植村が笑いながら言った。

「でも、とりあえずハードルは一個クリアした感じなんだよね?」

「ああ、一番どうしようか困ってたハードルがクリアできそうだな。よかったよ。」

「そっかそっか。じゃああとはコツコツ頑張る感じかな。よーし私もイラスト描かなきゃね、頑張るぞっと。京都旅行もあるしね。」

「お、そうだったそうだった、京都旅行楽しみだねー。そういえば俺京都行ったことないかも。」

そのあと、京都旅行の話をし、その日はそれでお開きにした。

正直言うと少しほっとしていた。

今回のハードルは時間もないこともあってほんとにクリアできるか自信がなかったから。たまたまとはいえ、現時点でおそらくベストに近い解決策を短時間で見つけられたのは良かった。PHPの入門書を読みながら馬鹿正直にサーバを作って・・・ということをしていたら京都旅行中も実装をしていることになるところだった。その日は本屋で購入したクラウドボックスの本を読み、ラスボスメーカーでの実装の仕方をイメージしてからゆっくり寝ることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る