ラスボスメーカー 第3話

今日も俺の家に3人で集まっていた。

高校1年、2年は春休み、同じ学年の連中は受験が終わって卒業旅行にでも行っているか、浪人することにして来年に備えて予備校の手続きをしているか、そんなところだ。

ゲームを作っている、なんてのは全国的に俺たち3人くらいのもの。だろう。

「ねえねえ、卒業旅行とか行った?」

「いや、行ってねー。彩ちゃんは行ったの?」

「来週行くんだ、京都行ってくる。クラスの子達とね。2人も行けばいいのに。」

「それ女子だけで行くやつでしょ。なんか行きにくいしいいよ。」

杉本に同感。居心地悪そうだ。

「そう?別に一緒の部屋に泊まるわけじゃないんだしいいでしょ。」

「え、そこぉ?」

そこじゃない、そこはもちろん別の部屋にはなるだろ。

「え、なに、一緒の部屋がよかったの?やらしーなもう。」

「いやいやいや、そんなこと言ってないし。え、でも本当に一緒に行っていいの?」

「ん?いいと思うよ、たぶん。それに暇でしょ?2人ともゲーム作る以外やることなさそうだし。」

「彩ちゃん、俺なんか軽く傷ついたんですけど。」

冗談冗談、と植村が言った。俺も軽く傷ついていた。

「じゃあ2人も一緒に京都旅行ね、みんなにも言っとく。あ、ホテルとか2人で適当にとっといてね。楽しみだなー。」

「おし、じゃあそれまでにこれ仕上げないとな、水原ちゃん。あ、水原ちゃん、ホテルの予約頼んでもいい?俺そういうの苦手。」

俺がやるのかよ。

「わかったわかった、あとで見とくよ。でもあれだな、せっかくだしさ、そのときにラスボスメーカーみんなに見てもらってもいいかもな。」

「あ、それいいかも。時間はあるしね、いい、いい、そうしよう。」

「んじゃ俄然それまでにちゃんと仕上げないとやばいじゃん。」

「だね。」

そう、頑張らないと。と思ってはいたがひとつだけ課題があった。

一番のポイントになるラスボスのことだ。

ラスボスメーカーは仕様上、どうしてもサーバサイドのプログラムが必要だとわかっていた。クライアント側だけのプログラムでは完結できないのだ。今までのようにストアからダウンロードしてきた実行ファイルだけではみんなの作ったボスの情報をタイムリーにユーザ間で共有することができない。

とはいえ、今の俺たちにそれをうまいこと実現する技術が不足していた。

「これ、どうやって作ったらいいんだ?」

杉本の疑問ももっともで俺自身もそれを実現する最適な方法がわからないでいた。

「下手するとサーバが落ちる、ていうよくある話になるな。」

「そうそう、なんか急に怖くなってきた。」

もうひとつ、お金の問題もある。サーバをネット上で公開していくにはお金がある程度かかる。おそらく多くて月に数千円程度だろうとは思うが、とはいえ、それくらいはかかる可能性があるわけだ。ただ、できるだけ少ない費用で抑えたい、というのも本音。

「どんな設計にしたらいいと思う?水原ちゃん。」

「いや、正直さっぱりだな・・・。」

「だよね。俺も。」

「ただ、やりたいことって結構単純だと思うんだよな。ボスのデータ、というかパラメーターだけをサーバにアップする。そして他のユーザはそのデータをゲーム起動時にサーバから拾ってきてゲーム内に反映させる。そうすれば他のユーザのラスボスをユーザのゲーム内でだせるよな。ほんとそれだけのはずなんだ。だから、そんなに複雑なことはないんじゃないか、と思ってて。」

「なるほどなるほど。まあ、そうかもね。だから肝心なのは、データをアップロードする機能とデータをダウンロードする機能、ていうことだよね。それだけできればサーバ側は終わりっていうことになるはず、と。」

「そう。そういうのっていくらでもWeb上にあるだろ。だから結構すぐできると思うんだ。やったことはないけどさ。」

とはいえ、ゲームだって今まで作ったことはなかったわけで。それが今では好きに企画を考えて作る、リリースする、ということまでできるようになっている。やろうと思えばできる、やると決めればできるはず、そう思っていた。

「俺さ、ちょっと本屋行ってきていい?」

「え、今から?」

「ああ、サーバ関連の本ちょっと見てくる。」

「俺も行こっかな、サーバの話ちょっと興味はあったんだよねー。」

「え、私は?」

植村が言った。

「一緒に行く?」

「うーん・・・、まいっか、じゃあ一緒に行こっかな。それならさ、駅の近くにあるおっきいとこにしようよ、私もデザインの本みたい。」

「わかった、じゃあ3人で行くか。」


自転車に乗って駅まで行った。

昼過ぎということもあり、駅の中のレストラン、ファーストフード店は混み合っていた。部活終わりだろうか、高校生らしき姿もちらほらみえる。

「もう制服着れないんだよね、なんかさみしいなー。」

それを見ていた植村が言った。

「着ればいいじゃん、別に。」

「え、なんかもう着たらダメな気がするんだよね。多分犯罪だよ。」

よくわからないが、なんとなく言いたいことはわかる。そう思った。

駅ナカにある本屋は比較的大きい。なんでも揃っている、というわけではないが、とりあえず一番売れてそうな定番的な本は揃っている印象だった。これ以上の品揃えを望む時は名古屋まででてジュンク堂やら三省堂書店に行くしかなかった。

「パソコン関係は、と・・・。あ、ここかな。水原ちゃん、ここにあるよー。」

十分とは言えないが参考になりそうな本は何冊かありそうだった。PHP、Ruby、たしかそのあたりがメジャーなサーバサイドのプログラミング言語のはず。

「お、G-engineの本もある。これ新しい本だな。」

パソコン関係の本の量が少ないからか、ゲーム関係やサーバ側の本、ワードやエクセルの使い方のようなビジネス関係の本当にパソコン入門的な本までがごちゃまぜに並べてある。この規模の本屋だとこうなるのは仕方ない。

俺はPHPの本を手に取った。入門書だ。目次を斜め読みし、パラパラとページをめくっていった。入門書らしく変数とは、からif文の使い方、for文での繰り返し処理のことまで説明がされていた。このあたりの文法の基礎も初めて扱う言語だから必要なのだが、どちらかというとそれよりはサンプルプログラムというかサンプルで作られている問い合わせフォーム実装のページに目がいった。そのページではよくWeb上にある問い合わせページをPHPで実装する方法が書かれていた。名前、email、問い合わせ内容、そして送信ボタン。これでサーバ側にはその情報が送信され、サーバ側で送られた情報を保存する。ただその本では保存する方法までの情報の記載はなかった。送られてきた情報をログとして表示する、というところまでで説明が終わっていた。注意書きにデータの保存にはDBデータベースを扱います。とある。ただそれについての詳細の記述はなく、別の本を参照する必要がありそうだった。

ここまでは正直予想していた通り、という印象。

PHPを使ってサーバ側に問い合わせフォームのようなものでデータを送信する、そしてDBにデータを保存する。そうすればラスボスメーカーでやりたいことはできそうなんだが、俺は方法を探していた。、というのは特にデータを保存する方法のことだった。DBを使えばデータを保存できて、というのは知っていた。知っていたといっても軽く使ったことがあるだけだったので深い知識はないが、何に使えるかくらいはある程度把握していた。問題は、DBを扱うことに決めるとコストが増える可能性があること、そして自分のDBに関する知識が少なすぎることだった。DBの勉強をして、という選択をしてもいいのだろうが、時間が圧倒的に足りないのと、やはりインターネット上にサーバを公開することについては慎重になるべきだ、そう思っていた。だからできればもっと他の方法で代替することはできないか、その方法を探しに本屋に参考になりそうな書籍を探しに来たわけだ。

「水原ちゃん、いい本あった?」

「いや、どうだろうな、やればできそうな気はするんだけどさ、別の方法ないかなって思ってて。でもないな、やっぱりデータベース使うしかないのか。」

「え、データベースは使わないつもりなの?」

「ああ、できれば使いたくないなって。だってそもそもそんなに複雑なことしないだろ、パフォーマンスもそんなによくなくていいはずだ。だからデータベースじゃなくてもなにか他に方法あるんじゃないかって思ってたんだ。」

「ああ・・・。まあそうかもしれないけど。あれだね、このクラウドボックスみたいにファイルとかいろいろぽんぽんアップロードできたらいいのにね。」

杉本はクラウドボックスの本を見ながら言った。

クラウドボックスはインターネット上にファイルや文書を補完できるサービスだ。PCでもスマートフォンからでも便利にアクセスできなおかつある一定量までは無料で扱えることから利用者が非常に多いネットワークサービスだ。俺もよく利用している。

「そうだな、やりたいことはそれで終わるんだけどな。」

「あれ、クラウドボックスって開発者用のAPIとかあるんだ。へー知らなかったな。」

「え・・・。杉本、それちょっと見して、どんなAPIがある?」

「え、公開されてるAPIのこと?ちょっと待ってよ、えーっと・・・、ファイルのアップロードでしょ、あとファイル情報取得ってのがあるね。ほかにも・・・」

「それだ!」

思わず声が大きくなった。周りにいた人がこっちを向いた。

「ちょ、ビックリさせんなよ、なに、なにがそれなんだよ。」

「あ、わるいわるい・・・。あ、いや、またあとで話すよ、とりあえずさ、その本、俺買うから。」

「え、そうなの?PHPとかRubyじゃないけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫、多分それでラスボスメーカーができそうな気がする。」

「え、これで?うそー。」

俺は"パーフェクト クラウドボックス"なる本を購入した。

わざわざ本屋に来た甲斐があった。

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