ラスボスメーカー 第2話
今までで一番面白い。
言うは易し行うは難し。
時間があるときはずっと考えていたんだが自分の中でなかなかまとまらなかった。いくつか案は思い浮かぶ。ただ、少しだけ深く考えてみるとそれは全然面白いとは思えない案が多かった。面白いゲームはどうやってできてるんだ、どうやってつくるんだ、誰か教えてくれ、とよく思うんだがおそらくそんなものないんだろうなーと思い始めていた。
今作ろうかと思っているは、シンプルなRPG、リズムゲーム、パズルゲーム。扱うとしたらそのあたりだろう。実はどれもちゃんとつくったことはないからどれでも作り始めたら楽しくやれそうなんだが。ただ。面白くなる自信がなかった。まして、今までで一番面白いってのはハードルがけっこう高い。
ランサーはアクションRPGとしてある程度やりたかったことはできた。もちろん改良できることもあるだろうが、それには単純に技術、時間が足りなくて難しいかもしれない、ということが多かった。例えば定期的に新ボス、アイテムを追加していく、プレイヤー同士での交流の場所、機能をアプリ内につくることなどだ。それらはまだ理解しきれていないサーバ関連の技術が必要だった。いずれはやるつもりだが、それが大学が始まるまでのこのあと残り少ない高校生活の時間内にできるようになる保証はない。それを取り組んでいくのもありだが、それをして圧倒的に面白くなるようなイメージもないからしてどうも踏み切れないでいた。
Jewelsだってアプリを使ってリアルで友人と遊ぶことができるゲームだ。これはこれでけっこう楽しんでもらえたし満足していた。たぶん今まで作った中ではプレイしてもらった人数だけで比較するとダントツでJewelsが多いはずだ。それは単純に文化祭でやったから、となるわけだが。まあそういう意味でいくとJewelsを超えるゲームをつくるのが一番難しいかもしれない。
3年生の文化祭のときにやったビルダーは個人的には満足な出来だったがあれは自己満足なだけでプレイヤーが付いてきていない感があった。面白いと言ってくれる人はいたからエッジの効いたゲームだったのだろう。まあ、あれはあれで俺と杉本がそのときはまっていたゲームをそのまま作ってみた、という感じで楽しかったわけだが。それにコードを書いた量も一番多かったのもビルダーだ。そういう意味では技術的にはビルダーが一番ハードルが高かったのかもしれない。もちろんコード量が多いから技術が必要、というわけではないが。
つまるところ、だ。
今までで一番、というのはJewelsに匹敵するユーザ数とビルダーを超える技術、ランサーの時のようなユーザ目線に立ったゲームの開発が必要なわけだ。
できないとは思っていない。
できないとは思っていないがそれを実現するだけの企画が思いつかない。
それが問題だった。
「どれもパッとしないねー。」
植村がノートに箇条書きにした企画案をみながら言った。
「ああ、面白くなる気配がないんだよな。」
「うーん、企画ってやっぱ一番難しいのかなー。」
「いやいやでもさ、今俺たちにできることに限界があるってのも一つ原因だとは思うけどねー。それ言っても仕方がないんだけど。」
そもそも、という話だ。杉本の言う通りスキル不足がハードルになっていることは確か。
「そうだな。でも俺は技術的なことはとりあえず抜きにしたらいいと思うんだ。技術が足りなくてもどうやってつくるかわからなくても企画が本当に面白ければそれを実現できる方法ないか、って必死になるだろ?」
「まあ、そうだね。」
「うん、確かに。」
「な、でも今出てる企画はさ、そこまでいってないんだよ。作れるだろうけど、作ってどうなんだ、ていう気がしちゃうんだよな。」
「うーんそうだね、確かに。Jewelsのときはさ、水原くんが企画を発表してくれたじゃん、それ聞いた時ね、"それ作りたい!"、って思ったもんね。ああいう感じってことだよね。」
「そう。」
「なるほどなるほど・・・。そうだよな・・・。あのさ・・・、ちょっと話まとまってないかもだけどさ・・・、俺、やっぱみんなでやれるゲームが面白いと思うんだよね。」
杉本が話し出した。
「みんなで?」
「うん、みんなでやるやつ。一人ゲーも好きだよ、でもやっぱさみんなでワイワイやれるゲームがすきなんだよ、好きっていうか、違うな、作るならみんなでワイワイするゲーム、てことかな。Jewels作ったときのこと覚えてる?あれさ、当日は俺らはみてるだけだったから何もできなかったけどさ友達とかみんながあんなに楽しそうに俺たちが作ったゲームやってるの見るのってすげー嬉しかったんだよね。ビルダーはそういうの忘れて一人ゲーの世界に走っちゃったけど、あれがあったからJewelsのよさとか、自分が作りたいゲームの姿がちょっと見えてきた気がするんだ。」
確かにそうかもしれない。
「うん、そうだね、確かにJewelsは私も楽しかったなー。あれはたしかに杉本くんのいう通りみんなが楽しんでるのを観れたからかもね。」
「そうだな。たしかにJewelsは良かった。俺もあれは嬉しかった。そうか、みんなでワイワイ、か・・・。」
みんなで、友達と、家族と、ワイワイできるゲーム。そんなゲームを俺も作ってみたい。
「みんなでワイワイってさ例えばなに?」
唐突に俺が言う。
「え?なになに?」
「いや、ワイワイするって例えば何かなって思って。俺は・・・、例えばワイワイってのは家族とか親戚で正月に集まったときにボードゲームやるとかかな、て思ったんだ。俺のワイワイってのはそういうイメージなんだ。人生ゲームとかさ、さして仲良くない親戚とかとやってもなんかワイワイなるだろ?そういう感じ。」
「ああ、そういうことね。うーん、私は・・・。あれかな、このまえのバレンタインのときに友達と一緒にケーキ作ったときかな。失敗はしたんだけど一緒にやって楽しかったからまあいっかてなるんだよね。あれはワイワイなってた、ワイワイしながらケーキ作ってたね。」
「ワイワイか、ワイワイ、ワイワイ・・・うーん・・・。あれだあれ。まあゲーム一緒にやるのはワイワイなって当たり前だけどさ、サッカーの試合でギリギリ勝ってそのあと帰りにみんなでコンビニとかでお疲れ会してるときなんてもうワイワイどころじゃないねー。よく怒られたなー。ワイワイじゃないな、ガヤガヤなのか。」
「そっか・・・。なんかその辺りに答えがありそうな気がするな。あとちょっとで見えそうなんだけど。」
俺は宙を見ながら言った。何かいいアイデアが出そうな気配がした。
身近な例で言うと、今、この状況、俺の家の、俺の部屋でこうやって3人でゲームの企画を考えていることも"ワイワイ"な状況だろう。この状況、シチュエーションを作り出せるゲーム。そういうゲームに仕上げたい。
まとまりそうでまとまらない、頭の中でぐるぐる考える。
「そうだねー。”一緒に”でしょ、”つくる”とか、”サッカー”、あ、いや、サッカーは違うよね、じゃなくて”勝利”か、勝利の美酒なわけだよね、杉本くんの言ってた話って。それがワイワイなるって。」
一緒に、作って、勝利・・・。
たしかにそれはワイワイを作り出す主成分のように思えた。
「あ・・・」
「え、なになに、思いついた?」
「お、きたきた?」
「あ、いや、わるい、思いついてはないんだけどさ・・・。一緒に、作って、それに勝つ、てのは面白いかな、て思っただけなんだけどさ。」
「一緒に作って、勝つ?どういう意味?」
「いや、まだ考えまとまってないんだわ。でもなんかそれうまく形にすると面白そうな気がして。」
誰かと一緒に作ったものを苦労して倒す。そして勝利の美酒。盛り上がりそうな気はする。
ワイワイ、という状況がそこに生まれそうな気がしてきた。
あと一歩、もう少し形にしたいところだが。
「水原ちゃん、例えばさ、みんなでダンジョンつくる、なんてどう?」
杉本が俺の方を向いて言った。
「毎日なんか頑張って、なんか、ってのはなんでもいいんだけどさ、ブロックを積むなり、素材を集めるなり、ま、いろいろあるよね。それでさ、みんなで時間かけてダンジョンつくるんだよ、で、そのダンジョンの難しさを競う、ていう。ね、なんか面白そうじゃない?」
「確かになんか面白そうー。ユーザが自分でダンジョンつくるとか謎だし。変なゲーム、だけどちょっと面白そう。」
「ああ、確かに。でも、それ面白い。」
「ね、面白いよね。なんだろ、ダンジョンメーカー?ていう感じかな。」
「なにそれ、タイトル?」
「タイトルタイトル。」
「ださー」と植村に言われる杉本。
「ダンジョンメーカーかどうかはおいといて・・・、あれだな、ありだな、それ。」
「うん、ありあり。でもタイトルはとりあえず保留ね。」
「わかったわかった、タイトルは保留でいいよ、もう。」
若干拗ねる杉本。
「みんなでダンジョンを作る、と。なんかいろいろできそうだね、でも、いろいろできそうだから逆にやり過ぎると多分完成しなさそうだから気をつけないと、だね。」
「確かにそうだな。」
大手のゲーム会社だったりするとここでこんなことは言わずもっと意見をだしてどんどん仕様を盛り込んでいくのかもしれない。あれをやろう、これをやろう、みたいな。それは、それをやる時間も人もお金もあるからできることだ。(それだけの成果を出さなきゃいけないから、ということもあるだろうが。)
俺たちももちろん素直にやりたいと思ったこと、入れたいと思った機能をどんどん入れていきたいのは山々なんだがそれをするといつまでたってもゲームとして形になっていかず、いや、形になってはいくが、期限までに完成せずリリースできない、となることを知っていた。植村の「気をつけないとね」はそういう意味だった。
「わかっちゃいるけど、あれだね、これ毎回ほんともどかしいよねー。一回くらい時間とかそういうの気にせず好き勝手に仕様決めてゲーム作ってみたいな。あ、あとお金も。」
「そうだな、それは俺もそう思う。けど、それでいいゲームができるかどうかはわからない気もするんだよな。」
大手のゲーム会社だって無制限にリソースがあるわけでもない。俺たちよりは恵まれているのは確かだが、いろいろあるだろう。単純に人が多すぎて結局最後まで仕様やらがまとまらずうまく仕上がらなかった、とか、もちろん技術的なハードルだってあるはずだ。
肝心なのはその制限の中で最大限面白いゲームを生み出していくこと、だと俺は理解していた。
人がいて、時間もあって、技術もある。そんな恵まれた環境だったら100%面白いゲームができるわけではない。もしそうだったら小さなゲーム会社なんて存在せず巨大なゲーム会社だけが生き残っていくことになるだろう。
でも現実はそうなってはいない。
むしろ大手から独立して小さなゲーム会社を設立し好きなゲームを作る、なんて人がいたりするくらいだ。もちろん理由は様々だろうが大手には作れないゲームだってある、そう思っていた。
「そうなんだよねー、とはいえ、だよ、俺たちは時間なさすぎ、だからね。うまい方法考えなきゃね。」
「そうだな。」
「はいはい!」
植村が突然手を挙げながら言った。何か思いついたようだ。
「ダンジョンだと難しそうだからさ、ラスボスだけにしない?ラスボスを作れてみんなで戦えるゲーム。」
「ラスボス、だけ?」
「そうそうラスボスだけ。ラスボスのパラメーターとかをさ、みんなが作れるようにするの。それでね、それは、こう、マップとかかな、で見れるようになってるの。それで誰々さんのボスに挑む、みたいなそういう感じ。」
「ああ、なるほど。確かにそうするとダンジョンつくるほど機能は複雑になってないな。それにみんなで作る、ていうのもあるし。」
「てかそれよりなんでラスボスなの?」
杉本が言った。たしかに。
「え、いや、とくに理由はないんだけど・・・。初めがダンジョンつくるって話だったからかな、それでボス作ったら、て思いついて、んじゃラスボスかな、って思っただけ。いいじゃん、面白そうだし、最初っからクライマックスなんだよ、いきなりラスボスだ、てストーリーはじまるっておもしろくない?」
植村が嬉しそうに言った。
「最初っからクライマックスて・・・、ちょっと面白いじゃん彩ちゃん。」
杉本が笑いながら言った。たしかに最初っからクライマックスてのは新しい、というか普通やらない。
「あれだよね、なんとかさんのラスボス倒したけど、でも別のなんとかさんのラスボスはまだいるから、次のボスに挑んでもまたラスボスだ、ていう感じの演出になる、てことだよね。」
「うん、そうそう。意味わかんないかもだけど、それこそさっきの話じゃないけど私たちにしかできないよ、大手のゲーム会社だったらこんなの作らせてもらえないでしょ、多分。」
たしかにこんな毎回ラスボスなんて企画はやらせてもらえない気がする。俺たちにしか作れないゲームのように感じた。
「ラスボスメーカー、だね。」
「それダンジョンメーカーのパクリじゃん。」
「そうだっけ。」
はは、と植村が笑っていた。
「そうだな、それでいこうか。ラスボスメーカー。たしかにちょっと面白くなりそうな気がする。」
「うん、そうしよう。じゃあ企画、ていうかコンセプトかな、は大体こんな感じでいいよね。ラスボスを作ってみんなで戦う、ていう感じ。私、明日からいろいろイラスト描いてみる。」
「ああ、よろしく。あとは、といってもまだまだ決めるとこはあるんだけど今日は遅いしまた明日にしようか。」
いつの間にか窓の外は暗くなっていた。
「りょうかーい。」
「オッケー。」
俺たちは明日、またいつもの通り俺の家に集まる約束をしてその日は終わった。
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