Jewels 第15話

9月5日。文化祭2日目。

1日目のJewels開催での失敗を元に宝箱となるビーコンの数を追加と宝箱を探索するときに使用するスマートフォンの追加の準備をしていた。ビーコンについては追加で100個、全部で200個となる。設定作業自体は簡単だが昨日の夕方からと今日の朝、かなりの時間を使って手分けして対応をしていた。

そして問題のスマートフォンの確保。

これは奇跡的にプラス20台確保することができていた。

学校中の生徒につてをたどって協力をお願いしていたのだが、昨日のJewelsの評判もあってだろう、協力を得やすかったようだ。借りてきたスマートフォンについてはすでに実行ファイル形式になっているJewelsのアプリをインストールする作業を杉本を中心に朝から進めてもらっている。どちらもまだ作業中だが13時のゲーム開始には間に合うはずだ。

9時。

続々とエントリーを希望する生徒が教室にやってきた。

昨日と同じペースか若干多いくらい。

よく見ると昨日に引き続き参加してくれている生徒もいる。気に入ってくれたみたいだ。これはこれで嬉しい。

2日目ということもあってだろうか。中でエントリーの受付業務をしてくれている女子も少し落ち着いて対応できているようだ。いい調子だ。あとは男子メンバーが追加予定のビーコンとスマートフォンをセットアップするだけ。

「杉本、あと何台残ってる?」

「7台、かな。あとちょっと。」

杉本は廊下の隅で床にPCを置き端末のセットアップをしていた。実行ファイルを端末にインストールしていくだけだがここまで台数があると地味に面倒だ。

「はあ、さすがに参るね、こんだけの台数をセットアップすんのは。」

そりゃそうだろう。単純作業だから余計そう感じるかもしれない。

「悪いな、頼むよ。」

「気にすんなよ、これくらい全然大丈夫だからさ。とりあえず間に合いそうだから安心してよ。この感じだと水原ちゃんの予想通り、用意しといてよかったて感じかな。」

杉本は賑わっている教室の方を見て言った。

「ああ、そうだな。昨日から用意しといてよかった。」

慎重すぎるか、とも思っていたがそれでちょうとよかったかもしれない。そう感じていた。

「よし、今日で最後だし頑張るかなーっと。」

杉本はあぐらをかきながら残りのセットアップ作業を始めた。

「よろしく。なんかあったら連絡しろよ。」

「了解っす。」

俺は教室の中に入っていった。中では植村たち女子が受付業務をしていた。

「次の方どうぞー。」

「13時にまたここに来てくださいね、ゲームの説明があるのでお願いします。」

「あ、すいません、順番にやりますんでちょっと待ってくださいね。」

特に問題はないようだった。受付をしているうちの女子も慣れ始めているが、参加エントリーをしている生徒の方もなんとなくわかった様子だった。おそらくどんなゲームか事前に聞いてきているのだろう。

「なあなあ、マジで1位狙おうぜ。昨日やってだいたいわかったからさ、狙えるって。」

「ほんとかよ。てかお前昨日も参加してんのかよ。」

「うるせーな、いいだろ別に。これ意外におもしれーんだって。」

「うそつけよ、ただの宝探しだろこれ。」

「そうだけどなかなか見つからねーんだって。それにチーム戦だからさ、協力しないと勝てねーんだよ。」

「ふーん、まあいいや、いいよ、マジでやろうぜ。」

というやりとりをしているグループがいた。なんていうか狙い通りすぎて驚いたが、俺たちの想定がうまくはまっていてよかった。たぶんこれがはじめの頃に話していた単純な宝探しゲームだけだったらこうはならなかっただろう。チーム戦にしてランキングをつけたからこそ、「マジでやろうぜ」と言い出すやつがでてきた、と俺は思う。

「水原くん、水原くん。」

植村だった。

「どうした?」

「もしさ、端末なくなったらどうすればいい?エントリー締め切っていいよね。ていうかそれしかないか。」

「ああ、そうだな。なんとかしたいけど、今回はそうするしかないな。」

「そうだよね、わかった。うまくやっとくよ。」

「ああ、よろしく。」

「ところでさ。」

植村が俺の目を見て言った。

「さっきなに笑ってたの?」

「へ?」

笑ってたつもりはないんだが。

「いやなんかさっき受付してる人の方見て笑ってたからさ、なんかあったのかと思って。」

「いや、笑ってないよ。うまくいってるみたいだからよかったな、て見てただけ。」

「ははーん。」

植村がさらに俺の顔を覗き込む。

「なんだよ。」

「やってやったぜ、とか思ってたりしたんじゃない?それで自然にニヤニヤしてたんかなー水原くん。」

「アホか。」

「ふふ。まあでもよかったね、ほんと。私も素直に嬉しいなーこれは。」

植村は受付を待っている生徒の方を見渡しながら言った。

「あれだね、なんか癖になっちゃいそうだよね。」

「どのへんが?」

「え?いやそんなに深い意味はないんだけど、こう、人に楽しんでもらうこと、ていうのかな。そんな感じ?」

思わず、はは、と俺は笑った。

「なによ。」

じろりと俺の方を見る植村。

「おいおい、怒るなよ。」

「もう、たまにそうやって小馬鹿にしたように笑うよね、水原くん。よくないと思いまーす。」

「ごめんごめん、気をつけるよ。でも俺もそう思うよ。」

「え、なにがそう思うの?」

「癖になりそうだってこと。俺もこの感じがたまらなく好きだな、てことだよ。やってよかった。」

「でしょ!」

さっきと打って変わって満面の笑みで俺の方を見る植村。よかった本気で怒らせたかと思った。

「ああ。」

まだ2日目の本番のゲームがあるのにもうすべて終わってしまったかのような会話を植村とし、俺は教室をでた。廊下の隅の方では杉本がまだ必死にセットアップ作業をしているのが見えた。俺もあと少し最後までやり切ろう。そう思った。

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