Jewels 第12話

12時過ぎ。

俺と杉本は他のクラスの様子を見て回って教室に帰ってきた。

普段は真面目なくせにこういうときには思いっきり羽目を外してくるところはうちの学校の生徒らしい。真面目で勉強ばっかり、と思われたくない。どこかでそう思っている生徒も多い気がする。もちろん勉強についていけず諦めている生徒もいるが。なんにしろ、俺はけっこうこの高校のこういうところは好きだった。

教室に入るとまだ数名エントリーをしている生徒がいた。

「あ、水原くん。」

植村が俺に気づいた。植村も今日は巫女の格好をしている。巫女の格好に合わせてなのか今日は珍しく髪をひとつに束ねていた。ひとりすごいかわいい巫女さんがいたんだ、と廊下で話をしている生徒がいたが多分それは植村のことだろう。巫女の格好がよく似合っていた。

「遊びに行ってたでしょ。もう、けっこう大変だったんだよー。」

ばれていた。

「わるいわるい。それよりさ、どう?」

「えっとね、全部で46組だね、エントリーしてくれたのは。スマホいっぱい用意しといてよかったね、ほんと。途中からヒヤヒヤしてた。」

「そうだな。でもそれだけいればだいぶ盛り上がりそうだな。よかった。」

46組のエントリーは予想より多かったが少ないよりはいい。ゲームにはなりそうだ。

正直少しほっとした。

「でもね、さすがにこの人数は教室にはいりきらないから全員同時には説明できないかな。何組かにわけて説明することにしないと。」

「そうか、しまったな・・・。とりあえず、できるだけ公平になるようにゲーム開始時間だけは同じになるように調整するしかないな。」

Jewelsはゲーム性として多少のゲーム開始時間に差異があっても問題はなかった。もちろん1時間も開始時間にずれがあると、あとから始めたグループは圧倒的に不利だろう。ただ2、3分のことであればそこまでは問題にならない。

とはいえ。ランキングで順位をつける以上、そこは解消しておくべき問題だった。あとでトラブルになりかねない、ということだ。ネガティブな言い方をすればJewelsはランキングという機能を使って参加ユーザを煽っているあおわけだから。それは運営側がゲームを運営する上で配慮すべき問題なのだ。Jewelsを楽しんでもらうためにも、Jewelsを盛り上げるためにも、だ。

「じゃあさ、植村たちにゲーム説明をしてもらったら俺たちが順番に校庭まで案内するよ。それでエントリーしてくれたグループが集まったらその場でスマホを渡していって全員一斉にスタート。これでどう?」

「それなら大丈夫だと思う。それでいこ!」


13時少し前。

徐々に集まってきたエントリーグループを教室に案内していった。4、5名のグループが多いようだ。そして予想通り教室にすべてのエントリーグループは入りきらないようだった。教室が参加者でいっぱいになると一旦案内を止め、教室の外で待ってもらうことにした。

13時。

教室の中ではゲームの説明がはじまった。

「皆様、本日はおいでいただきありがとうございます。」

巫女の格好をした植村が話を始めた。教室が薄暗いこと、植村の格好のせいもあってそれっぽい雰囲気がでていた。

「これからJewelsのルール説明を行わせて頂きます。といいましてもルールはいたって簡単です。このJewel、つまり勾玉を探して頂くだけのシンプルなゲームです。」

植村は手に持っていた勾玉(ビーコンが入ってるわけだが)を参加者に見せた。

「ただし・・・。我々は真剣です。これはゲームですが皆様がJewelを探すことができなければこの学校に大いなる災いが降りかかります。」

クスクス、と笑う生徒がいる。まあそうだろう、さすがにこの程度の仕込みではこのゲームの世界観に入りきれず現実とのギャップのシュールさがツボに入ることもある。でもそれでも俺はいいと思っていた。これは必要な演出なのだ。伝わりきっていなくてもまずは伝えること、それをしたかった。植村にもそのクスクス笑いは聞こえていただろう、植村は気にする様子もなく続けた。

「我々はJewelを探し出すためにある装置を開発しました。皆様にはそちらの装置を使ってJewelを探し出して欲しいのです。そして見つけ出した勾玉を用いていにしえよりこの地に住まう土地神様の怒りを鎮めねばなりません。」

けっこう練習したんだろうか、それとももともとこういったことが得意なのか、さだかではないが真実味のある話に聞こえる。植村、やるな。

「それでは我々からのご説明は以上です。何卒、ご協力をよろしくお願いします。皆様のお力でこの学校を救ってください。」

説明が終わったグループから校庭に案内をしていった。

「意味わかんねー。」

「神社ってほんとにあったんかな?」

「あるわけねーだろ、バカかお前。」

「ちょっと面白くなってきた。」

などなど。各々話をしているようだった。

「はあー、緊張した。」

植村が疲れた顔をしていた。

「お疲れ、いいね。けっこう練習した?」

「したよー、だってこれ大事な役でしょ?」

「ああ。」

「適当にやると水原くんに怒られそうだしね、頑張るよ。」

植村が笑いながら言った。別に怒りはしないが。

「あともう一回くらいやらないとダメだよね。」

「そうだな、あと一回頼むよ。そしたら校庭に行ってゲームスタートだ。」

「いよーし、あと少し、がんばるぞ、と。」

「ああ、頼むよ。」

その後、同じ説明を植村はもう一度した。

そしてゲーム開始のため校庭に向かう。校庭には先に説明をした参加グループが集まっていた。いまかいまかと待ちわびている。

「それでは順番にスマホを渡していきます。1グループに1台です。」

手分けして順番にスマホを渡して行った。俺たちもはじめてだが参加してくれる生徒たちもこういったことははじめただ。だからだろう、みんなワクワク、というかそわそわしている様子だった。

「水原、オッケー。全部渡した。」

杉本が俺に報告をしてくれた。

「植村、いいよ、開始の合図して。」

隣にいた植村に俺は言った。植村は「うん」と頷くと集まっている参加グループ全員に向かって言った。

「お待たせしました!それでは・・・、ゲーム開始でーす!みんながんばってねー!」

一目散に走りだすグループ、作戦を話し合っているグループ、とりあえず怪しそうなところへ向かって歩き出すグループ、様々あった。

「うわーほんとのはじまっちゃったなー。」

杉本が言った。

「これどうなんだろうな、楽しみだけど俺ちょっとだけ怖くなってきた。」

「まあ、そうだな。俺も正直ちょっと怖い。」

「え!いやいや、水原ちゃんがそれ言っちゃだめでしょ!」

「そんなこと言ったって仕方ないだろ、ほんとなんだから。」

「まあまあ、なんとかなるよー大丈夫大丈夫。」

植村は微笑みながら俺と杉本に向かって言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る