Jewels 第11話
9月5日。
文化祭初日。
文化祭は9時からだった。
事前に配布されたパンフレットや生徒間での口コミで広がったせいもあってか、9時のはじまりからエントリー希望の生徒が続々とうちの教室にやってきた。運営事務局としていた教室は人で溢れかえっていた。
ゲームの世界に入りこむために俺たちは教室にも工夫をしていた。
黒い厚手の生地ですべての窓や出入り口を覆い光が入ってこないようにし、教室の中は複数台設置されたLEDキャンドルの光で照らしていた。可能なら実際にロウソクを使ったほうが雰囲気もでるのだろうがさすがにそれは危険だろう、ということでLEDキャンドルを使うことにした。(照明器具については詳しくなかったが実際に使ってみるとLEDキャンドルは炎のゆらぎまで再現していて悪くなかった。)
教室の方はそんなところだ。でもシンプルなだけにそれだけで雰囲気はでていた。ものさみしい感じが恐怖感を演出してくれていた。
そしてもうひとつ。これも雰囲気を作るいい役割を果たしていたものがある。
運営事務局のスタッフがしている巫女の格好だ。
この衣装の用意は杉本が対応した。結局予算上の関係で全員分を買うことはできなかったが、その分は弓道部から弓道着やら剣道部から胴着やらをかき集めなんとか人数分を用意した。若干のばらつきがでて統一感がなくなるか、と思っていたが神社というひとつの世界観を伝える目的は達成できているように感じた。ネットで購入してきた安物の巫女さんのコスプレグッズだったが薄暗い教室の中ではそれで十分だった。うちのクラスの女子にはこれが意外にも好評で植村をはじめノリノリで巫女さんの格好をし、運営事務局のお仕事をしてくれた。一方男性陣はというと、完全に裏方のお仕事に徹していた。この展開は、意図せずに、という感じだったが結果オーライということでよかったと思っている。女性陣がやる気を出してくれたことで文化祭の準備も首尾よく進んだのだから。
「エントリーはこちらでーす。中でエントリー手続きをお願いしまーす。」
巫女さん扮するうちのクラスの女子が教室の入り口で宣伝をしていた。
「あ、これか。エントリーしてこうぜ!」
「やるの午後からでしょ?とりあえずエントリーしといて他のクラスの見に行こうよ。」
「2人でも参加できるのかな?聞いてみよ。」
教室の中はエントリー手続き待ちの生徒でごったがえだったが、教室の外でもエントリーをするか迷う生徒、様子を見に来た生徒で賑わっていた。
とりあえずつかみはオッケーということだろう。
エントリー作業もうまくいっているようだ。
「いいねいいね、順調じゃん、盛り上がってるー。」
教室の外で一緒に様子を見ていた杉本が言った。
「そうだな、とりあえず順調っぽいな。」
「そだね。でもさ、水原ちゃん、俺たちは暇だねー。」
そう、参加者の案内、教室でのエントリー作業、このあと午後に行われるJewels参加者へのゲーム説明はすべて巫女さんに任せていた。
つまり。
俺たちに出番はなかった。
なかったといっても途中システムのトラブル等があれば対応することにしていたが、今回のアプリそのものはシンプルなこともありそれは考えにくかった。
だから。暇なのだ。
「なあ水原。ちょっと他のクラスいろいろ見に行こうぜ。あとで植村にバレたら怒られそうだけどな。」
「そうだな。エントリーが終わる12時にまた戻ってこれば大丈夫だろう。」
俺と杉本は他のクラスの出し物を見に行くことにした。
「なんか見たいとこある?」
杉本が聞いてきた。
「いや、というかそもそもどこがなにやってるかなんて全然知らない。」
「えー見てないの?まあ水原ちゃんっぽいけど。といっても大して面白そうなものなかったんだけどね、あ、2年8組でやってたお化け屋敷だけいってもいい?ちょっと気合入れてやってたみたいだしさ、行こうよ。」
「へーお化け屋敷か。文化祭でそんなのやるんだ。」
「いやいや水原ちゃん、お化け屋敷もそうかもしれないけど、俺たちのやつも相当だからね。けっこう噂になってたし。」
「あ、そうか。」
「ほんと水原ちゃんなんか夢中になってると周り見えなくなるよね。」
杉本が笑って言った。
「うるせーな、いくぞ。」
2年8組の教室は1階にあった。俺と杉本は3階から1階へ階段で降りた。
2年8組の教室付近に近づくと人が集まっているのが見えた。
「お、けっこう人いるじゃん。」
教室の教壇側の出入り口がお化け屋敷の入り口になっているようだった。そしてもちろんもう一方の出入り口がお化け屋敷の出口になっている。時折その出口から人が出てきていた。
「とりあえずはいろっか、水原ちゃん。」
「ん、ああ。」
「え、なに、怖いの?」
「アホか。」
「んじゃ行きますか。」
少し列に並んで待っていたらすぐに入れた。
そして、すぐにでてきた。でてきたというのはもちろんお化け屋敷の正式な出口から、だ。
「・・・」
「どうしたんだよ。」
「いや、俺さ、ちょっとだけ期待してたんだ、ちょっとだけなんだけど。でもさ、全然面白くなくってさ。がっかりした。」
杉本はがっかりしていた、期待するのも変だと思うが。
その後、体育館でやっていた軽音部のライブを遠目で見たりとりあえずやってみたという感じの1年生クラスの夏休みの調べ学習的な出し物を見て回った。
「俺たちも1年生のときはこんなんだっけ水原ちゃん?」
「いや、文化祭あまり絡んでなかったからな、よく覚えてないけど、まあこんなんだったんだろうな。」
「まあそうだろうね。なんかこう、改めて思うんだけどうちの学校すげー自由だね。俺たちの出し物についても特になにも言われないしね。」
「そうだな、そういうところはありがたいな。」
もちろん俺は自分の高校のことしか詳しく知らないが、伝え聞きで聞く限りうちの高校は周囲の高校に比べてゆるいようだった。こういうイベントごとにしても、校則にしても。
「そのかわり勉強については厳しいけどな。」
「う・・・。それ今日は忘れさせてよ。」
はは、と俺は笑った。杉本の成績はまだ低迷中なのだった。
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