Jewels 第9話

「といわけで、グループはこんな感じだからね。ほんとはエントリー制だけど今回はそこはショートカット。肝心の宝探しをやってみましょう、ってことでいきます。みんな大丈夫ですかー?」

植村からクラスのメンバーへトレジャークルーズの説明。このクソ暑い夏休みの最中に行われる補習が終わった午後に10名ほどのクラスメイトがトレジャークルーズに参加してくれた。ありがたい。

「とりあえず、宝箱さがせばいいんだよね?オッケー。」

GVGを参考にしたとはいえ、ただのチーム対抗宝探しゲーム。スマートフォンを使うという目新しさはあるかもしれないがゲーム自体は単純そのもの。理解は早い。

「それじゃあ、みんな、いまから2時間ね。はい、いってらっしゃーい!」

いってらっしゃーい、て植村、軽いな。まあいいか。どこかのでっかい遊園地だとかアミューズメントパークだと植村扮するキャストに可愛い制服を着せてもっとストーリーを持っていくんだろう。やってみるまで気づかなかったが、これはもう少し世界観を作り込めばもう少し面白くなるかもしれない。これはあとでみんなに相談をしよう。

「ねえ、水原くん。私たちも行こうよ。」

「ああ、そうだな。て、俺と杉本はビーコン隠したからダメじゃん。」

ゲームを始める前に宝箱となるビーコンを学校中に隠して回ったのは俺と杉本だった。練習とはいえこれじゃ楽しめない。

「そうだよ、隠した場所わかってるから全然面白くねーよ。」

「あ、そっかそっか。それじゃあ、私探すから、ついてきてよ、水原くんと杉本くんは見てるだけ。」

「えーなにそれ。」

俺もそう思った、なんだそれ、と。

とはいえやることもないので俺と杉本は植村についてまわることにした。


教室横の階段から1階まで降りる。植村はアプリを起動したままキョロキョロ辺りを見回す。

アプリに反応はない。プレイヤーは実際にこういった行動をすることになるんだろう、そう思いながら俺は植村を見ていた。

「ねー、どこ隠したの?教えてよ。」

「いやいやいや、彩ちゃん、まだ始まって5分と経ってないよ、もうちょっとがんばろうよ。」

杉本はすかさず突っ込む。ごもっとも。

1階の生徒用の玄関口横を抜け2年生の校舎から体育館へ続く渡り廊下を歩く。グラウンドではサッカー部が練習試合をしているようで賑やかだった。

でもそれより賑やかなのはうちのクラスの連中。ぼちぼち宝箱が見つかったグループもあったのだろう。ちらほらアプリのアラーム音が遠くから聞こえて来る。

「あったあったー!」

みんなが楽しんでいる様子をみて少しほっとした。ちゃんとゲームっぽくなっているようだ。

「いいないいなー。私もそろそろマジでやるかなー。」

ゲーマー植村が久しぶりに本気のようだ。

植村は1年生の校舎を中心に隅から隅まで歩き回っていた。1階にある1年生の教室、トイレ、2階にある1年生の教室、物理実験室、物理準備室と入れるところは徹底的に入ってみてスマートフォンをかざしながら探し回った。

「ドラクエではじめての街に入ったときこんな感じだよね、ツボをすべて割っていく感じ?」

「ああ、そうだな、似てるな。」

「ね、似てるよね。あちこちに街の人、みたいにヒントをいう人にいてもらうのもありかもね。」

「ああ、それもありかもな、謎解きの要素も加える、てことだよな。」

「うん、そうそう。そんな難しくなくていいんだけどね。村人Aとかやりたいなー。」

「いやいや、村人Aはヒント言わないっしょ。」

そんなくだらない会話をしながらその後も学校中を回った。


そして16時。

お試し版トレジャークルーズは終わりとした。

感想は様々。

「チームでやるってのはいいね。」

「全然見つかんねーけど面白いわ、これ。ありあり。」

「2時間探すのは辛くね?」

「やっぱりご褒美はいいの用意したいよな、でも難しいか。」

「外はダメだ、暑いからさ。宝箱隠す場所はある程度絞ろうぜ。」

などなど。

やってみないとわからないことばかりだった。

ただ、手応えはあった。

その日はお試し版トレジャークルーズに参加してくれた多くのクラスメンバーと改善案について議論をした。正直言うと、人数が多すぎて議論にまとまりはなかった。時間の無駄だったかもしれないが、俺はゲームを作り上げていく楽しさを久しぶりに実感していた。

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