Jewels 第6話

またホームルーム。

あれから何度かのホームルームを経て、俺たちのクラスでは文化祭でゲームをすることに決定していた。ただゲームといっても何を、どうするのか、そもそもどんなゲームなのか、についてなにも決まっていなかった。(つまり肝心なことはなにも決まっていない)

そして、これは何度かのホームルームを経てわかったのだが42名もいるこの教室という空間で

「どんなゲームをつくりたいですか?」

なんて言ってもそれは絶対に出るはずもないエリアでメタルスライムを探し続けるくらい無駄な時間になることを俺は何度かのホームルームで教壇に立ち、学習していた。これは、あるいはアメリカなど海外の高校ではディスカッションが得意な生徒たちがうまく議論を進めメタルスライムがでないエリアでもメタルスライムを見つけ出してしまうような奇跡を起こし素晴らしいアイデアを生み出すのかもしれない。

ただ、それはこのクラス、このホームルームの時間には起こり得ないことだった。

そうそう、言い忘れたが、俺はここ何度かのホームルームで教壇に立っている。

なぜか。

それは何度目かは忘れたが以前のホームルームでクラスの文化祭委員に任命されたからだった。これは新井くんのようにのクラス委員長なんかではない。お前しかいない、という教室の空気に任命された結果の文化祭委員長という称号だった。

正直言うと俺はクラスで特に目立つ存在ではない(少なくとも俺の認識ではそうだ)のだがクラスでも目立っている杉本と植村が、

「水原くんがいいと思います。」

「水原ちゃんでいいんじゃない?」

なんて口を揃えていうもんだから、それなら水原くんがやったほうがいいのか、なんていう空気になり文化祭委員長になったというわけだ。文化祭なんてそれとなくやりすごそう、と密かに思っていたが中心になって盛り立てることになってしまうとは思いもしなかった。


そして。

文化祭委員長である俺は今日のホームルームにひとつのアイデアを持ち教壇に立っていた。

「アイデアを出してください、といってもなかなか難しいと思うので今日はひとつゲームのアイデアを持ってきました。」

俺は前日、自宅でまとめた企画について話を始めた。

トレジャークルーズ。

俺はそのゲームをそう名付けた。

トレジャークルーズはビーコンと呼ばれる小型の発信機とスマートフォンを利用し、学校内に隠された宝箱を探し出すゲームだった。校内のいたるところに隠されたビーコンを受信機であるスマートフォンアプリを使って探し出す、そういうゲームだ。

簡単にいうと学校中を使ってお宝探しをやろう、というわけだ。

「景品が何か、とかそういうことはまだ考えてないです。まあ、お菓子とかが限界かなと思ってます。というわけで、トレジャークルーズの案は以上なんですが、どうでしょうか。」

途中から気になっていたんだが妙に教室が静かだ。張り切りすぎでひかれた?いや、まさか今さらそんなことはないとは思うが。なんとなく心細いなーと感じていたときだった。誰からともなく拍手をしはじめた。

誰に向かってなのか、なんの意図があってなのかはじめは理解できなかった。

その拍手はだんだんと伝染していった。俺に向かって拍手してくれてるんだ、と気付くまでにしばらくかかった。こんなに素直な拍手を受け取るのは初めてだった。どんな顔して立ってたらいいんだよ、と思いながらも、かっこよくスマートにその場を乗りきりたかった俺は何事もなかったかのように続けた。

「じゃあ、トレジャークルーズをやる、ということでいきましょう。ただ、まだまだ詳細を詰める必要はあります。で、なんですが・・・。」

とりあえず動揺は隠せただろう。なかなかのドッキリだ。植村か杉本がパッパラーとドッキリ大成功の看板を持ってくるかと思うくらい。

そして俺は続ける。

「ぼくのサポートをしてもらえる方を募集したいな、と思っています。文化祭の副委員長みたいな仕事ですね。」

そう、けっこう真面目に俺はこの文化祭を成功させるために考え始めていた。でもこの文化祭を成功させるためにはサポートが必要だった。一人ではさすがにできない。この42人をまとめ上げ文化祭を成功させることは難しい。だから副委員長的な役割が必要だ、そう考えていた。

「というわけで・・・、誰かお願いできませんか?」

高校2年生はけっこう忙しい。勉強も部活も全力でやる必要がある。とくにうちの高校は文武両道、という言葉を振りかざす傾向があり、部活も全力でやって当たり前、運動部でガツガツ活動して当たり前、部活も全力でやっていい大学に行け、という雰囲気があった。

そんな中での文化祭だ。

委員長ではないとはいえ、煩わしい仕事は増やしたくないのが当たり前だ。誰でもそう思うはず。

だから、正直あまり強くはお願いできなかったし、お願いしたくはなかった。

一人だけでも誰か手伝ってくれれば。そう思っていた。が、予想に反して勢いよく手が挙がったのだった。

杉本と植村だ。

そして他にも数名。

「ありがとうございます。じゃあ一度このメンバーでまた詳細は打ち合わせをするということにして、今日はこれで終わりにしますね。」

その日のホームルームはそれで終わりにした。

正直ほっとしていた。

ホームルームが終わってから杉本と植村には褒められたというか、からかわれたというか、そんなやり取りがあった。でも、面白くなりそうだ、という点は2人とも同じ意見だった。俺も少しずつそうだがそう感じはじめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る