Jewels 第5話

「文化祭でやりたいことありませんかー。」

とりあえずクラス委員長をやっている新井くんが言った。とりあえずというのは、とりあえずで、仮に、ということだ。もう7月なのにいつまで仮なのかわからないが、うちの高校ではクラスの委員長なんてそういう扱いだった。出席番号が若い生徒が先生の餌食になり、雑用を押し付けられる。そういうとりあえずのクラス委員長をしてくれている殊勝な生徒が新井くんだった。

そんな新井くんが教壇に立ち、誰かに向かって虚しく呼びかけていた。

「あのー、なんでもいいので誰かやりたいことありませんかー。」

なんとかしたかった。

文化祭を、ではなく新井くんを助けたい、という意味で。

時間だけが無駄に過ぎていく中。この沈黙を破る勇者がいた。

「あのー。例えば、なんだけどね・・・。」

声の主は植村だった。

「ゲームとかどう?」

新井くんがキョトン、とした。

「あ、いや、ごめんね。具体的には全然考えてないんだ。でもね・・・。」

植村はぐるりと首を回して斜め後方の方に座っていた俺の方を見た。同じ教室にいるとはいえ距離があったが、ばっちり目があった。

「うちのクラスにはゲームマスターの水原先生がいるしね。なんとかなるかもしれない。」

お前はヨーロッパのどっかのビッククラブで活躍するサッカー選手か、というくらいのキラーパスを植村は出してきた。

「あ、なるほど!」

なるほど!って新井くん、俺は君を助けたいと思っていたが、こういう助け方をする予定はなかったんだけどな。斜め前に座っている杉本がニヤニヤしてこっちを見ているのが見えた。

これはあまりよくない展開だ。


その日は時間の関係もありそれ以上詳細を話すことはなかった。

でも明らかに流れは俺にとって良くないと思われる方に傾いていた。

ホームルームが終わってから杉本が俺のところにきた。

「いやー水原ちゃん、ちょっとおもしろいことになってきたんじゃない?」

「なにがだよ。」

「なにがってとぼけちゃってー。ぶ、ん、か、さ、い、のことに決まってんじゃん。ま、とりあえず、前向きに行こうよ、前向きに。」

「他人事だと思って・・・。」

俺はため息をつく。

「ま、そうなんだけどさ、でも俺は悪くないと思ってるよ。」

杉本と話をしていると植村も俺のところにきた。俺にキラーパスをぶちかました張本人。

「水原くんごめんねー急に。」

ごめんと言っているがそんな素振りはしていない植村。植村のことだから悪気はなく、素直にそれがいいと思っての提案だったんだろう。

「でもさ、けっこう面白いと思うんだよね。そう思わない?」

「そうそう、俺もいま水原ちゃんとその話してたんだ。ね、悪くないよね彩ちゃん。」

「・・・。このままいくとマジで文化祭、ゲーム、てお題でいくことになりそうだな。」

「そうだね、うん、この感じでいくと多分そうなるかなー。他に案出てないしね。」

「ゲームっていっても何すりゃいいんだよ・・・。」

俺は結構マジで困っていた。

「いいじゃん、次のホームルームでみんなに相談しようよ。そうすればなんかいい案でるって、だいじょぶだいじょぶ。」

この展開になったのは植村が原因だったが植村を責める気にはなれない。

まあでも、植村の言うことも一理あるのはわかっていた。ここは一度この状況を前向きに(無理矢理だが前向きに)捉え、どうやるか考えてみることにし俺はした。

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