ランサー 第14話

10月。

俺たちははじめてのアップデートに向けて作業をはじめていた。

平日、学校では昼休み、放課後に教室で3人集まって改善案についてより具体的に話を詰めていった。クラスの奴らははじめは何事かと不思議そうに遠巻きに俺たちのことをみていたが、最近ではその光景にもなれたようで特に何も言わなくなった。

週末は夏休みと同じように俺の家に集まって具体的な作業を進めた。植村はイラストを描く作業になるので自宅で作業をすることが多かった。さすがにペンタブ(ペンタブレット。パソコンで絵、イラストを描くためにデザイナーが使う道具だ。ペンのような形状をした入力装置を想像してもらえばいい。)を持ってくるのは辛い、ということでそうしている。


俺たちは改修するポイントは3つに絞っていた。

1つ目はUI。

これは主に植村の担当。今リリースされているバージョンのランサーでは、メインゲーム画面右下に「ジャンプ」「攻撃」と書かれたプレイヤーの操作用ボタンが配置されている。これをユーザーフレンドリーに改修していくことを目標にしている。具体的には「ジャンプ」「攻撃」なんて書かれたボタンではなくキャラがジャンプしているアイコンが乗ったボタンに変えてしまう、ということにした。単純にその方がわかりやすいだろう、ということだ。

そして攻撃ボタンにについてはさらに大胆に、ボタンをなくす、という決断をした。

この点については3人でかなり議論をした。なかなか議論は白熱したのだが最終的には今のランサーの良さであるメインゲームの「スピード感」をさらに活かすため、攻撃ボタンをなくすことにした。攻撃ボタンがなくなり、キャラクターは敵キャラに近づくと自動で攻撃をするように仕様変更をすることにしたのだ。

その結果、メインゲーム画面にはプレイヤーが操作するボタンとしてジャンプするアイコンが描かれたボタンが右下に表示されるだけになる。これでかなりわかりやすいUIになる想定だ。

2つ目の改修ポイントはキャラ。

これは言葉の通り。ユーザが操作しているキャラクターを植村にはじめからデザインし直してもらうことにした。普通のゲームでは途中からデザインが変わるなんて許されないだろうが、まあ明らかに良くなるわけだし大丈夫だろう。この改修ポイントについても植村に任せることにしていた。ただキャラクターについては植村にいくつかラフ案を作成してもらい、それらを3人で議論しながら最終決定をすることにしていた。

そして3つ目の改修ポイントはSNS連携だ。

これは効果があるかはわからなかった。でもやって損はないだろう、ということで複数のSNSと連携し獲得スコア、タイムのSNS投稿機能をつけることにした。SNS上で話題になる、というのはなかなか難しい。大手のゲーム会社でも狙ってできるものでもない。逆にやってみてお寒い結果になることだってあるのだが、まあ俺たちの場合はそれでも痛くもかゆくもないだろ、という杉本の楽観的な意見もありやることにした。これは俺と杉本の担当。

結果、今回のアップデートに関しては明らかに植村の作業ボリュームが多い改修になった。

でも植村は嫌な顔なんて一度もしなかった。むしろ日が経つにつれ段々熱感が上がっているようにさえ感じた。

「彩ちゃん熱いねー。」

杉本がよく言った。からかっているわけではなく、ほんとにそう言っていた。

植村は前面に感情を出すタイプではなく静かに燃える、元々はそういうタイプなんだと思う。でもどうも抑えきれなくなっている感じがある。キャラ変わってないか、なんて思うことがある。女子高生のイメチェンよくあることかもしれないが(夏休み明けに突然茶髪になってるとか)、植村の場合は見た目ではなくて内面が変わってきている、という印象だ。これが彼女の素だ、というならまあそうかもしれないが。最近では授業中にもラフを描いているらしく、

「ねえねえ、これどう?こういう感じもありだと思うんだよね。」

とリニューアルするキャラのデザイン案を授業の間にある休憩時間の度に俺と杉本のクラスまで走って持ってきたりする。こっちが照れるくらいほんと嬉しそうに。こういうときの植村は素直にかわいい。

そういえばゲーマーだということが友達にばれてしまったらしい。

「ばれちゃったんだよね。ていうより自分でうっかりばらしちゃった。」

植村のクラスの男子がゲームの話(もちろんスカイファンタシーの話だ)で盛り上がっていたところに我慢しきれなくて入ってしまったらしい。そしたらゲーマーだとばれた、そんな経緯があったようだ。

「でもいいんだ。なんか今の方が楽だし。今まで我慢してたからね。」

だそうだ。我慢してたのが我慢しなくてよくなった、つまり今の植村がほんとの植村彩ということのようだ。

でも最近の植村はすごく楽しそうで一緒にいて楽しい。

いい仲間に会えたな、俺は素直にそう思っていた。

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