ランサー 第13話

週末。

杉本と植村彩は俺の家にきた。

植村彩は少し緊張していた。そりゃそうだろう、はじめてうちに来たわけだし。

「ここでいつもゲーム作ってるの?」

植村彩が俺の部屋をキョロキョロ見回しながら言った。

変なもの置いてなかったか、ふいに不安になった。そういえば女子を部屋に入れるのははじめてだ。

「そうそう、夏休みはほんと毎日ここで作ってた。」

杉本は自分の部屋のように言った。

「いやー、でもほんと彩ちゃんがきてくれてうれしいわ。な、水原ちゃん。」

「ああ。」

「ううん、私も素直にうれしかったから。一緒にゲーム作るのほんと楽しみだし。」

緊張が解けたようにニコッと植村が笑った。


その日は植村の描いたキャラクター、モンスターなどを見たり、好きなゲームの話をした。

そして植村も見かけによらずかなりのゲーマーだということがわかった。

植村が好きなのは育成系のゲーム、かわいいモンスターなどがでてくるライトなRPG(端的に言えばポケットモンスターのようなゲーム)、音ゲー、パズルゲームが好きなようだった。最近だとスマホでディズニーのキャラクターをモチーフにしたパズルゲームをやっているということだった。

ただ、そのパズルゲームに関しては惰性でやっているとのこと。

もちろんはじめのころは楽しくやっていたらしい、でも最近では友達がやってるから、というだけの義務感でやっているとのことだった。

友達と仲良くするために続けている、ということだ。

「私ね、ゲーマーだって学校の友達にばれたくないんだよね。私の周りの子ってあんまりゲームやってる子いなくて。ばれてもいいといえばいいんだけど・・・。なんか隠しちゃってるんだ。」

植村の友達付き合いは複雑そうだった。女子なんてそんなものなのかもしれないが。

話は戻って植村のやってるゲームの話。

今、植村がやってる本命ゲームはスカイファンタシーとのことだった。

「意外って思ったよねたぶん。」

俺も杉本も頷いた。

スカイファンタシーはソーシャルゲーム開発が得意な会社が作ったスマートフォン向けゲームだ。ゲームサイクル、遊び方、UIなど、ゲームの内容自体はよくあるソーシャルゲームと大差ない。

だから俺と杉本は驚いた。

植村が好きそうなジャンルのゲームではない、そう感じたから。

「私難しすぎるゲームって苦手なんだよね。もちろんスカイファンタシーもソーシャルゲームだからさ、はじめのころは取っ付きにくかったよ。でもね、それ以上に世界観に惹かれたの。ちゃんとストーリーがあって、キャラが魅力的で・・・。うん、それでたぶん一番は爽やかさに惹かれたのかな。」

植村は折りたたみテーブルに自分のスマートフォンを置き、スカイファンタシーのプレイ画面を見せながら話を進めた。見ただけでやりこんでいるのがわかった。

「ファンタジー系のRPGってけっこうダークなもの多い気がするんだけど、スカイファンタシーは違うんだよね。今までやってきたファンタジー系のRPGがグレーとかパープルだとしたら、スカイファンタシーは雲のホワイトと空の爽やかなブルー。そういう感じなイメージがあって。そこが好きなんだと思う。」

スカイファンタシーはたしかにソーシャルゲームに分類される。でもソーシャルゲームと感じさせないクオリティのゲームだった。それは植村が言ったように世界観を作り込んであることによるのかもしれない。

「スカイファンタシーの話ばっかりだね、ごめん。」

ちょっと照れくさそうに植村は言った。

「スカイファンタシーの話はおいといて・・・。たとえばランサーにもっと魅力的なキャラクターを用意するだけでもっとよくなると思ったんだ。」

植村はランサーの改善案の話をはじめた。折りたたみテーブルの上に広げたノートにランサーのUI改善案をかきはじめた。

「あとね、機能はそのままでいいと思うんだけど、UIも修正したいな。ボタンのデザインとか。配置も変えてみたいし、タッチした時のボタンの動きも変えたいな。タッチしたらタッチしてることがわかるようにちょっと大きくなるとかほんとそれくらいでいいんだけど。」

植村はさらさらとノートに改善イメージのUIをかきながら話した。

どれも俺と杉本では全然気づけなかったポイントばかりだった。

「UIってねユーザが迷ったらだめだと思うんだ。ゲームの内容とか機能が複雑になっていくと自然にUIがごちゃごちゃするのはある程度仕方ないのかもしれないけど、説明は可能な限り少なくしてアイコンとかだけでうまくユーザに伝えられればいいかな、て思ってて。」

ランサーはG-engineが提供している基本的なUI機能を使って画面に必要なボタン、ダイアログなどを作成していた。俺と杉本としてはボタンがボタンとして機能しているからこれで大丈夫、と思っていた。もちろん最低限の装飾やユーザに伝わりやすいよう配慮はしていたつもりだ。

でもそれだけでは足りない。

そういうことだった。

そのあとも植村は様々な改善案を提案してくれた。どれもランサーをさらによくすると感じられる妥当な提案ばかりだった。

「なんか私ばっかり話してるけど大丈夫?ごめん、言い過ぎだったら言ってね。」

植村は俺と杉本の方を見て申し訳なさそうに言った。

「いや。」

俺は首を横に振り言った。

「素直に参考になる意見ばっかりだったし俺なんて気付けないポイントばっかりだったから。だから真剣に聞いてたんだ。」

俺は素直にそう言った。

「ほんと?よかった。」

植村は照れていた。

「ねえ水原ちゃん。」

俺の横で途中からやけに静かに植村の話を聞いていた杉本が言った。

「ランサーさ、アップデートしない?」

植村がノートに描いた改善案を見ながらだったが杉本が真剣なのは声でわかった。

「いや、これさ、彩ちゃんいればだいたいできるものばっかりだろ?ボタンの画像入れ替えるとか、キャラクターの画像変えるとか。全部できるよ。それに、これしたらたしかにもっとよくなる。」

杉本はノートを手に取り、植村の改善案を一つ一つ、丁寧に何度も見ていた。

「なあ水原ちゃん、アップデートしようぜ。」

杉本のやる気が俺と植村に伝わってきた。

「そうだな。次のゲームの企画も決まってないし。アップデートするか。」

「さっすが水原ちゃん、わかってるー。」

「植村もさっそくで悪いんだけどいろいろ頼めるかな?」

「うん、もちろん。楽しみだね。」

それから俺たち3人はランサーのアップデートに向けて動き出した。

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