ランサー 第15話
その日は植村が仕上げてきたUIパーツ、キャラクターをG-engine上にはめ込み実際に実機上で動作を確認してみることにしていた。実際に実機で触ってみると想定と違う、なんていうことがよくあるのを俺と杉本は今までの経験から知っていた。だから植村にも俺の家まで来てもらい最新のバージョン(バージョン2.0と俺たちは呼んでいた)を実際に見てもらうことにしていた。
杉本は慣れた手つきでG-engine上で実機書き出しの準備を始めた。すでに新しいUIパーツ、キャラクター画像などのリソースはG-engineに取り込み済みだった。昨日自宅でやっていたらしかった。
PCとスマートフォンをUSBケーブルでつなぎ実行ファイルの書き出し(ビルド作業)を始めた。
ビルド開始ボタンを押すとG-engineでビルド作業の進捗を示すダイアログが表示された。
ゆっくりとビルドの進捗を示すバーが伸びていく。
しばらくして、「BUILD SUCCESSFUL」とダイアログにビルド成功の文字が表示された。
そして接続していたスマートフォン上でランサーバージョン2.0が起動した。
「あ、動いた、すごいすごい!」
植村はビルド作業を初めてみたからか、興奮した様子で言った。
バージョン2.0ではスプラッシュ画像(スマートフォン上でアプリ起動時に表示される画面のこと)も変えていた。スプラッシュ画像は植村の描いてくれたランサー用の画像になっている。
「おお、いいねいいね。」
杉本は思わず声が出た、という感じだった。スプラッシュ画像は大手のゲーム会社が作ったアプリだとだとその企業のロゴをでかでかと表示させていることが多い。俺たちの場合はそういうのはなかった。だからランサーのメインキャラクターが槍を持って走っている様子を表現したアイコンをでかでかと載せた。それが表示されただけだったのだがもう以前のランサーとは雰囲気が違っているのがわかった(前は何も設定していなかったのでG-engineの仕様上、スプラッシュ画像はG-engineのロゴがでるようになっていた)。杉本が思わず声を出してしまったのもわかる。
スプラッシュ画像が切り替わりタイトル画面が表示された。
「おお!」
思わず3人で声を上げてしまっていた。いつもの折りたたみ机に置いた小さなスマートフォンを3人で覗き込むようにみていた。
せまい。
でも3人ともそんなことは木になんてしていなかった。新しくしたタイトル画面に見入っていた。
「やっぱいいねー、このイラスト。絵が変わるだけで全然違うなー。」
杉本が言った。中世ヨーロッパ風の城がでかでかと描かれたイラストはそれだけでランサーの世界観を物語ってくれていた。そしてもう一つタイトル画面で工夫した点があった。
「これ、この悪そうなやつにさらわれていくお姫さまを追っかけていくのもいいよ。お姫さまがさらわれたから助けに行くんだ、ってここですぐわかるし。」
植村が言った。タイトル画面ではゲームの世界観をプレイヤーに伝えるために新しくアニメーションを加えた。単純にさらわれていくお姫さまをメインキャラクターが追いかける様子を繰り返し見せるだけのものだったが、それだけでランサーがどんなゲームなのか、なにが目的なのか、よくわかるようになっていた。
「ねえ、次いっていい?」
植村が待ちきれないよ、という様子で俺の顔を見て言った。
「いいよ。」
ほんとはもう少しタイトル画面を見ていたかったが仕方ない。
植村はスタートボタンを押した。
新しいメインゲーム画面が表示された。
メインゲーム画面は予定通り攻撃ボタンは無くし、ジャンプボタンだけを配置したシンプルなものになっていた。その結果、情報量が単純に減ったためやはりユーザにとって理解しやすいUIとなっていた。そして背景に使っている画像。これは植村が新しく描き起こしてくれたものに変更していた。はじめは城下町、徐々に街道に変わっていきその後、森、沼地、危険な火山地帯・・・と様々なフィールドを表現した背景に変わっていた。
俺は素直に感動していた。
ほんとにランサーは良くなった、そう感じていた。
その後俺たちはバージョン2.0をプレイして細かな修正点をリストアップした。いくつか大きな改善案も挙がったがそれは一旦次回以降に対応することにして話を終わらせた。
まずはこの新しいランサーをリリースする、ということを目標とした。
一通り作業の詳細の詰めが終わってから俺は2人に向かって言った。
「ありがとう。」
杉本も植村もキョトンとしていた。
「なにが?どうしたんだよ水原ちゃん?」
何言ってんだお前、と言わんばかりの顔をしていた。
「いや、なんかお礼ちゃんと言っといたほうがいいかなって思ったんだ。」
自分で言っといて俺は恥ずかしくなっていた。
うまくごまかそう、と思っていたら、
「こちらこそ、だよ。」
と、植村がまっすぐ俺の方を見て言った。
「私、けっこう好き勝手やって楽しませてもらってるからさ。たまに、いいのかなーて思ったりしてたんだ。でも役に立ってたなら良かった。新しいバージョンのランサーもちゃんとできたしね。こちらこそありがとう。」
「そうだよ。俺だって水原ちゃんがいなかったらこんなことしてないし、それに水原ちゃんがいないとできないんだからさーしっかりしてくれよー。」
杉本はニヤニヤしながら言った。
「そもそもさ、水原ちゃんいろいろ難しく考えすぎなんじゃない?俺みたいにしたらいいじゃん。」
「それは嫌だな。」
植村が笑っていた。
「2人ともほんと仲いいよね。」
「そうそう、ラブラブなんだよね。」
「いやそんなことはない。」
「またそんなこと言ってー。」
「水原くんと杉本くんのコンビってなんか面白いよね、絶対合わないだろう、て感じなのにこんなに仲良くて。ほんと不思議。」
「なに言ってんの彩ちゃん、彩ちゃんも一緒にやってんだからさ、周りは、あの3人て絶対合わなさそうなのに、て思ってるよ。」
「あ、そっか。それもそうだね。私もずっとそっちのクラスにいってるもんね。」
「そうそう。」
それはその通りだった。そうだな、と俺は笑って言った。
杉本と植村の言葉が嬉しかった。
翌週。
俺たちはランサーのバージョン2.0を公開した。
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