ランサー 第9話

「ちょちょ、これでほんとにストアにでるの?バグないよな?ほんと大丈夫だよな?」

俺のノートPCのディスプレイを覗き込みながら杉本は不安そうに言った。

「落ち着けよ杉本。バグはあるかもしれないけど、さっき二人でちゃんとプレイしただろ。」

「いやでもさー。俺はこれが初めてだから緊張すんだよ、わかる?」

「まあそれはわかるけどな・・・。とにかく、大丈夫だから。バグがあったらアップデートしよう。」

俺は最後の設定作業をWeb上のアプリの管理画面で行った。


ゲームのタイトルは「ランサー」。

ランサーは、槍を持ったキャラクターを操作してゴールを目指す横スクロール型のアクションゲームだ。ランサーというゲームタイトルは槍=ランス、走る=runランをかけた造語、のつもりだった。

俺たちなりに工夫したゲームタイトルだった。

そして俺たちはランサーはをスマートフォン向けのゲームとしてリリースすることにしていた。

理由は単純。

それが一番早くゲームを公開する方法だったから。

「じゃあ公開するよ。」

そう言ってアプリ管理画面からアプリ公開ボタンを押した。

読み込み画面が表示され、PCのディスプレイ上にぐるぐるルーレットのように円を描くアニメーションが流れた。

俺と杉本は静かにディスプレイを凝視していた。

表示されているローディング画面をじっとみていた。

ぐるぐるぐるぐる。

そして再びアプリ一覧画面が表示された。

ランサーは「公開状態」のステータスになっていた。

アプリが公開されたのだ。

「これで作業は終わり。ランサーは公開された。」

「ちょ、まじで!?すげー!」

「検索にひっかかるまではまだちょっとかかるけどな。」

俺の言った最後の「検索に・・・」の話を杉本は聞いていない。それくらい喜んでいた。ずっと俺のノートPC上に映っているアプリの情報ページを見ている。

「ほんとすげーなー。俺ゲーム作ったんだよな。」

、な。」

「わかってるよ、もー水原ちゃんそういうとこ厳しいよね。でもさ、ありがとな。」

「は?」

「いや、まじで水原ちゃんと一緒だからゲーム作れたわけだしさ。まじで感謝してるよ。ほんとありがとう。」

「なんだよ、急に。気持ち悪いな。」

「おいおいおい、気持ち悪いはないだろ、せっかくちゃんとお礼言ってるんだから聞けよ。」

杉本は笑っていた。俺の方こそお礼言わなきゃな、と思っていたけど言えなかった。そういうの苦手なんだよな。


その日はゲームをリリースする作業でお互い疲れてしまった。珍しく杉本が「俺今日は早く帰るわー。」と言うので早めに終わることにした。

俺はマンション下の自転車置き場まで杉本を見送りにいった。

「じゃあ水原ちゃん、また明日ー。」

明日ってまた明日も来るつもりなのか、と聞き返したかったが杉本は自転車で颯爽と帰って行ってしまった。


もうすっかり日が沈みかけていた。

連日部屋にこもっていたからか、久しぶりに夕日を見た気がした。

綺麗なオレンジ色の夕日だった。

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