ランサー 第5話
杉本はぶつぶつ独り言を言いながら練習用のゲームをつくっていた。
つくっているのは上からふってくるアイテムをキャッチするゲームだ。単純だがG-engineの基本的な機能を一通り使用することになる。練習にはちょうどいいゲームだ。作り方を間違えるとアイテムをキャッチできなかったり、操作するキャラクターがうまく動いてくれなかったり、はまりポイントはいくつもある。
だからだろう。さっきからずっと杉本は
「おっかしいなー。」
「もうー、動かねーじゃん。」
「あーくっそ、またエラーかよ。」
とぶつぶつ言っていた。普通の人はこの光景を見ると不思議に思い、
「杉本くん、大丈夫?どうかした?」
なんて声をかけるのかもしれない。でもプログラムを書いている時というのは人によってはこういう行動をすることもある、と俺は知っていた。というか、俺自身もプログラムを書いているときは杉本と同じようにぶつぶつ独り言をいうこともある。
「水原ちゃーん、ヘールプ。」
杉本が力なく俺を呼んだ。自力では解決できないのだろう。俺は杉本のPCを覗き込んだ。
「このエラーが消えないんだよ、でも本に書いてることと同じことしてるだけなんだぜ。」
確かに本に書いてあるプログラムと杉本が練習用に書いたプログラムは同じだった。
だがエラーがでている。ということはなにか問題があるのは間違いないが。
「プログラミングって面白いけどさ、けっこうだるいね。」
杉本がぼやいている。
「それはお前がプログラム書けないからそう思うだけだろ。」
「うわ、傷つく!」
エラーがでている箇所を丁寧に見ていくと単純に全角スペースがプログラム中に入っていることがエラーの原因だったことがわかった。
「ほらな。お前が間違ってた。」
俺はG-engineを実行しプログラムが正常に動作しているのを杉本に見せた。
「おー、なになに。何が原因だったの?」
「途中に全角スペースが入ってたんだよ。」
「そういうことか、あー一本取られたな。」
しまった、という顔をする杉本。
「あ、そういやー水原ちゃん。」
「ん?」
「水原ちゃんはなんでゲーム作り始めたの?」
「え?」
「あ、いや、別に言いたくないならいいよ、別に。ただ、水原ちゃんがゲームってあんまりピンとこないんだよね。」
「ああ・・・。いや、別に大した理由はない。多分。」
ふいに杉本に聞かれて答えに困った。自分でもなぜゲーム作りに夢中になっているか、整理しきれていなかったから。
「ただ。」
「ただ?」
「プログラムを書くことは面白いし、自分が書いたプログラムがG-engine上で動くのを見るのは嬉しい。」
「ほうほう。」
杉本が何度か頷きながら聞いていた。
「なんだよ。」
「え、なんでそこで怒るの?聞いてるだけじゃん。」
「そうか、ならいい。茶化されている気がした。」
「水原ちゃん、俺のこと信用してないよね。」
そんなやりとりをしながらお互い作業を続けた。
16時頃だった。
杉本の練習用のゲームはできあがった。
俺は杉本のPCで完成したゲームを確認した。問題なく動作していた。
「これでよく使う機能はだいたいわかったよな。」
俺は頷きながら言った。
「そうだねーまあ大丈夫かな。でも・・・。」
杉本は頭を掻きながら言った。
「なんかなーやっぱ面白くないんだよな、このゲーム。」
杉本は練習用でつくったゲームの内容に満足していないようだった。
「例えば、アイテムとったらもっと派手にどーんと演出を入れたりさ、"GET!"とか画面にピカピカだしたりしたいんだよね。」
杉本は身振り手振り話をした。
「やっぱゲームってさ、RPGでもそうだけどかっこいい演出の技とか魔法とか召喚とかがさ一番盛り上がるじゃん?俺、新しいやつ手に入れたら演出見たくてとりあえず使うんだよな。だからもっとそういうのつくりたいんだよなー。」
そうか。杉本はそういうのが好きなのか、知らなかった。
「杉本はそういうのつくる方が好きなのか?」
「演出とかのこと?うん、そっちの方がいいかな、かっこいいし。」
「そうか・・・。」
「ん?どうかした、水原ちゃん?」
「杉本、お前さ。俺と一緒に次のゲーム作らないか?」
杉本の目を見て俺は言った。
ゲームは一人で作るのは難しい。
これは一つ目のゲームを作ってから学んだことだ。だから俺は一緒にゲームを作る仲間がいたら、と少し前から考えていた。まさか杉本にこの話をするとは思ってはいなかったが。
「え、水原ちゃんと一緒に?いいの?」
「ああ。嫌ならいいよ。」
「いやいやいや、やりますやります、やらせてもらいます。」
杉本は早口になっていた。
「いいねいいねー。ちょっと楽しくなってきたなーこれ。で、水原ちゃん、なにすりゃいいの俺?」
まさか杉本とゲームを作ることになるとは思ってはいなかった。でも仲間が増えたのは素直に喜ばしいことだった。
そしてその日から俺たちは二人でゲームを作りはじめることになった。
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