第2話 まくらをつぶす夜

大学生の頃まで思っていた先は、その頃にも悩み苦しみはあったものの、誠実に非常にまっすぐなものであった。


自分がつきたい仕事につくため頑張って、就職をしたらまっすぐに頑張るんだ。

給料も将来のためにしっかり貯金をして、少しは親孝行をせねば。

自分の力でしっかりと生きていこう。


その考えは恋愛に関しても同じであった。


いつか、将来必ず自分を受け入れてくれる誠実な人と付き合って、自分もその好きな人につくして、互いに支え合ってケンカすることあれど、いつかは結婚するんだ。


浮気をなぜ人はするのだろうか。浮気をするという事は愛が薄れてしまったということではないか。


男女の友達関係はあると思う。だから自分が付き合った相手にことごとく女友達に会うなというのは束縛しすぎている気がする。だけど、キスから先は嫌だなぁ、、、。彼氏ができたら言おう、浮気をするぐらいなら、しっかり冷めたと言ってほしい、別れてほしい、と。


そんな事を考えていた。


そして社会人になったらどうだろうか。


仕事はそれなりに熱心にやっているが、ベストを尽くしているかと言われたらしていない。

貯金も仕事に疲れた自分へのご褒美というやつでできていない。


親に対して、実家から自立はしているものの、なんだかんだで仕事の愚痴を聞いて貰ったりとまだまだお世話になっている。


恋愛はというと大学時代に一瞬付き合って別れた以降、職場の圧倒的な独身男性のいなさで音沙汰ない。あまりにも家から仕事場への往復でなにもなく3年の社会人生活が過ぎていった私は、3年間の間それなりに危機感を感じ若者が集まる都市などに休みの日に行ってみて合コンもどきに参加してみたりもした。


だが、何かうまくいかない。話し下手であるのもそうだし、女子はみんなこぞって女子力をアピールしなければならない雰囲気、サラダの取り分けやったほうが良いのかと考えている途中に、自然と取り分けをこなすその他女子。出会いの場で積極的にならなければ、と言われるが全体が盛り上げようとお酒を飲んで騒ぐ雰囲気に、愛想笑いでしか参加できなかったり、逆に空振りしたりと不器用なのである。


その後も何度か「 出会いの場」というのを試したもののどうもうまくいかず、結局休みの日には家でのんびり過ごしたり、近くの町にお買い物に行ったり。

「そこはまだ25なんだからさぁ、がんばろうよサクちゃん」

職場のレイナ先輩にもそう言われた。


でもレイナ先輩、意外と一人が私きらいじゃないんですよ。

休日すきなものを買い、買い物に疲れたらお茶をして、家では買ってきた好きな本や漫画を読む。


すごく心が充実しているんです。

そう言ってみても独り身が何を見え張っているんだかと思われるかもしれないが、事実なのである。


一人はきらいじゃない。


だけれど、ふとした時に胸の奥がきゅーっとする。


色んな事をして気を紛らしてみるけれども、確かに胸の奥はきゅーっとしていて突如アタマのなかに言葉が浮かぶ。


ーさびしいー


考えないようにしようと心がけても一度気づいてしまうとダメなのである。

あぁ今日の自分はさびしがっている。

やっかいなのはそれはちょうど1日充実していたなぁ、さて寝るか、のタイミングできゅーっとするのである。

やっかいである。


しかし、そんな時にまずは相手をして貰える彼氏はいないし、友達にもこんな漠然としたさびしさを打ち明けるのもなんだか恥ずかしくて言えないでいる。


そんな時に長年の経験でつちかった技がある。

頭にあったまくらを胸元に手繰り寄せぎゅーっと押しつぶす。

きゅーに対しぎゅーっとしてやるのである。


そうすると、不思議ときゅーっとざわざわする気持ちは落ち着き、呼吸がゆっくりになって眠ることができるのである。


なんだぁ意外と簡単じゃん。


自分は焦らず、ゆっくりと自分に気があう人を見つければいいんだ。

きっと、いま出会いがないということは、将来に自分と合う人と会うため。

まずは好きになった相手に自信をもって愛して貰えるように、自分をしっかりすきになれるようにならなければ。


そうまっすぐな気持ちで生きようと誓った。


だが最近、私は道を踏み外している。

じわじわと、自分が思ってもいなかった道へと進んでいる。





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珊瑚の音 空時 スミレ @kotonoha-uta

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