珊瑚の音
空時 スミレ
第1話 回想
どこかで聞いたことがある。サクは大好きだった叔母の納骨の時ぼんやりと思った。
そうだ、学校の生物室で、水槽の中から珊瑚の死骸を取り出したときの音。珊瑚がこすれ合うような音。渇いていて、何処かさみしい。それは葬式の場で聴こえる音。人の骨が擦れる音と同じに思えた。
一月ほど前、叔母が若くして死んだ。43歳だった。
叔母の想い出の品や献花をたくさん、たくさん詰め込んで熱い火の中送り出された人と柩は、炭と白い細い枝のようなものでかえってくる。しっかりと形が残っているお骨以外は骨なんだかんだ他のものの燃えかすなのか判断つかないものが散乱していた。
今までの人生で数回葬儀に参加したことがある。金をかけてそうなお葬式では、正直何処までが人のものか分からない炭の細かな粉さえも丁寧にていねいにかき集められ骨壷に入れられる。ある程度の葬式だとある程度の骨として形に残ったモノのみ壺に入れ、残りはちりとりと箒でお掃除されるのでだった。
隅々まで、炭まで入れられる人生か。葬式場の片隅に体の一部がつもる人生か。
どっちが幸せかな、そりゃ丁寧に扱われた方がいい。でも死んだ自分にチリをいれるか入れないかの差で数十万か消させるのなら、取りあえず一通りの事をして貰えればなんだっていい。シンプル イズ ザ ベストだって言うじゃないか。
悲しいはずの葬儀の間、不気味なほど冷静な頭でそんな事を15歳のサクは中学生の頭で考えた。
後から思うと、あれは冷静なんかじゃなく、感情がマヒしていたんだろう。
「こちらは仏さんがおりまして、頭蓋骨で仏さんの宿を作ってあげるんですよ。」
そんなことを解説されながら、白い骨壷へ最後の骨の破片たちが詰め込まれていった。
小さい頃いけません、と怒られた同じ物を二つのお箸ではさむこと。
葬式の場で行うその行為をみんな、みんな神妙な面持ちでする。
葬儀が終わってから、若い私は考えていた。
自分はこれからどう生きていくのかと。
海にいる珊瑚は、一見色とりどりの花々のような海藻に見えるが植物ではない。動物だ。珊瑚はある月の晩に一斉に卵を産む。あざやかなオレンジ色のその卵は海をフヨフヨと漂う。
そして居場所を見つけ、育ち、立派な樹木のようになり様々な生き物の住処となり、卵を産んで生涯を終える。
色とりどりの珊瑚は死んだ後は白く脱け殻のような姿をしている。
人も生涯を生き抜いて、最後は死に。白い骨となる。
私はどう生きるのだろうか。
真っ白になる終わりの日、その瞬間まで。
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