【ヒロシ】
一同を見回したオサムは、アザミに「竜巻で檜腹村まで行くんかコラ」と聞いた。
「そのほうがてっとり早いと思っていてぇ」アザミが答える。
「まるでハイヤー感覚やのコラ」
そういって笑うオサムをアザミが睨みつける。
確かに電車とバスを乗り継ぐよりはるかに早道ではあるが。
「でも、竜巻なんかで行って途中誰にも迷惑かけないの?」今度はツムリが聞く。
「どうせもうこのへんは全部廃墟になってるから問題ないと思っていてぇ」アザミがいった。
「行くのはいいけどスズナちゃんはどうするの? わざわざこっちからスズナちゃんを敵地まで連れて行くの?」
「私、行きます」
決然とした口調でスズナがいった。
「やめたほうがいいよスズナちゃん」ツムリがおずおずと制しようとする。「危険だよ」
「私のせいでたくさんの人を巻き込んでしまいました。私の責任も大きいんです。だから自分だけ逃げるわけにはいきません」
「そんなことないよ、別にスズナちゃんのせいじゃないんだし」
「私、ギンガという方に会ってみたいんです。どうしてこんなひどいことするのか、いったい私をどうしたいのか」
またスズナの頑固な一面が出てきてしまった。
こうなるとツムリにも止めることができそうにない。
「……そうね」セリがおもむろに口を開く。「スズシロさんはもうどこに行っても危険なのは同じだから、むしろ私たちと一緒にいたほうが安全かもしれないわね。ただ、そういうことなら私は全力であなたを守るわ」
「僕も守るよ」ツムリがすかさず同調した。
「俺はどっちかっちゅうとおまえに守られたいんやけどのコラ」オサムは相も変わらずその目つきの悪さでスズナにいった。「その不思議な蜜でのコラ。万が一の時はよろしゅう頼むでコラ」
(まだいってるよ)
ツムリはあきれたが、ここまで来たらスズナは本当にみんなのために自分を犠牲にしてまで癒しの蜜を使うだろう。そんなことをさせないように自分たちが必死になってがんばらないといけない。できれば無傷で。
「おいおい、もうええやろボケ。こんなとこでいつまでウダウダ立ち話してんねんボケ。さっさと行こうやないけボケ」
熊がさっきからじれったそうに手に持った鮭を振り回しながらひとりで張り切っている。
「ねえ、待って」
どこからか声がした。
一同が見ると、小柄な童顔の少年がいつのまにか瓦礫の中に立っている。
究極の漢字砲を放って力尽きたチヂワレヒロシだ。
ヒロシはゆっくりツムリたちのもとに近づいてくると、
「僕のスズナちゃん、無事だったんだね」
やや弱々しい笑みを投げかけてきた。まだヒロシもボテフリゲンタロウと同じように体力が完全に回復していないようだ。
「??? あの……どちらさまでしょうか」
スズナが不思議そうな顔で聞く。
「僕はきみのことを永遠に守るナイトだよ」
少しずつ距離を縮めてくるヒロシにツムリは警戒感を強めた。
「ずっと聞いてたよ。どうやら流れが大きく変わってきたようだね」そういって近づいてくるヒロシにはしかし、緊迫した戦闘モードは微塵も感じられなかった。「この様子なら一気にギンガを倒せるかもしれないね。僕もきみたちと一緒に檜腹ミューカス学園まで連れていってくれないかな」
「……おまえ誰やねんコラ」オサムが不審感丸出しで聞いた。
「待田ジョキッチ学園の牧、チヂワレヒロシくんね」セリが確認する。
「そうだよ」ヒロシがうなずいた。
「ウソつけコラ。ジョキッチ学園っちゅうたら、あそこの学園牧のニカイドウフミヲは交通事故で今入院してんちゃうんか」
「僕はギンガの命を受けてその後釜に座ったんだよ。世の中は動いているのさ」
「チッ、おまえが学園牧て、何や弱そうなクソガキやないけコラ。それでも不良かコラ。だいたいおまえの子分はどこにおんねんコラ」
「ジョキッチ学園の連中はみんなモミノコヂョーと一緒に行っちゃったよ。僕はひとりのほうが性に合ってるんだ」
「ぜんぜん強そうに見えない学園牧だと思っていてぇ」アザミは値踏みするような目つきでヒロシを見ている。
「そやなコラ。アカンアカンおまえみたいなクソガキ、足手まといになるだけやんけコラ」オサムが邪険にひらひら手を振った。
「そんなことないと思うよ」そういったのはツムリだった。ツムリはヒロシの漢字砲の威力をいやというほど見せつけられていたのでその実力をよく知っていた。「チヂワレくんは結構スゴい能力持ってるよ」
「そうね」セリも同意した。彼女もヒロシの能力を知っているようだ。「必殺の漢検一級ね」
「なんやねんそれコラ」オサムは、はあ? といった面持ちだ。
「意味がわからないと思っていてぇ」アザミも不審感まる出しだ。
「……」
ヒロシはその場にピタリと立ち止まった。ややうつむきかげんのその姿から急に戦いのオーラが放たれた。
「きみたち全員……」パッと顔を上げ手を口に添えると「鏖(みなごろし)!」
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