【進軍】
「ウラーッ!」
各自さまざまな動物たちにまたがった南多魔エリアの不良軍団が、片手を大きく振りかざして鬨の声をあげている。
もちろん先頭にいるのはプチドラゴンにまたがっているモミノコヂョーだ。
動物の種類はバラバラもいいところで、馬や象に乗っている者もいれば、オランウータンにおんぶされている者やアオダイショウにしがみついている者もいる。だが、それでも統率は取れているのでツムリはすっかり感心した。
(まるでふぞろいの騎馬軍団だなあ……)
プチドラゴンの背中からヂョーは振り返って一同にハッパをかけた。
「ずっと考えてきたことを今こそ実行に移す! 野郎ども、今日こそギンガを倒しに行くぞ!」
「ウラーッ!」
そうして一斉に進軍を開始しはじめた。
地鳴りのような音が響き、地面が揺れる。
砂塵が舞い、大がかりな戦争がはじまろうとしていることをいやでも感じさせた。
こうして南多魔エリアの不良軍団はギンガの支配に対しておおっぴらに反旗を翻した。まさに来る時は一気だった。
名目上ギンガの支配下に置かれているとはいえ、実質的に南多魔エリアを仕切っているのは鉢王子ヴォミティン学園のモミノコヂョーであるということがことがはっきりとうかがえる光景だった。群れるのを嫌うさっきの漢字砲のチヂワレヒロシというハネっかえりもいるようだが、今、彼はどこに消えたかわからない。基本的に不良軍団はヂョーの統率下にあり、南多魔エリアがギンガの実行部隊から外されていたのもはそんなところが理由であることを想像させた。ヂョーたちがスズナ略取の指令を知らなかったのもとうぜんのことだった。
「おいおいおいコラ、おまえらどこに行くんじゃコラ。ギンガの居場所を知っとんのかコラ」
オサムがキョロキョロしながら大声で怒鳴る。
が、進軍の響きにかき消され、騎馬軍団の誰の耳にも届きはしなかった。熱狂の渦の中に不良軍団はかんじんな点をすっかりおろそかにしていた。
ヂョーのプチドラゴンに続いて各種動物たちが思いおもいに咆哮を空に響かせ、激した不良どももそれぞれが雄叫びをあげる。そうして騎馬軍団はあとに土埃を残し、あっというまに呆気に取られるツムリたち一同の前から遠ざかっていったのだった。
彼らのかわりに静寂が訪れ、あたりを支配した。
「……ほんで、あいつら、いったいどこに行くつもりなんじゃコラ」ぽつりとオサムがいった。
「ハブられてる南多魔のやつらがギンガの居場所を知ってるとは思えない、と思っていてぇ」
「まあそのうちどこかで合流するでしょう」セリもやや呆れ顔だ。
「僕たちはこれからどうするの?」ツムリが聞いた。
「アタシたちは今から檜腹ミューカス学園に行くことになってると思っていてぇ」
「ミューカス……」
セリがコテマリアザミの言葉を引き継いで、
「コテマリさんは竜巻でスズシロさんを拉致して檜腹ミューカス学園まで連れてくるようにギンガからの指令を受けていたそうよ。つまり、今のギンガの居場所はそこである可能性が高いということね。……いえ、高かったというべきかしら」
「どういうこと?」
「アタシがギンガを裏切ったことが知れたせいか、もう耳にギンガからの指令が届かなくなってしまったと思っていてぇ」
どうやらギンガの指令はおのおの学園牧の耳に直接届いていたようだ。
「ケッ、俺と一緒やのぉコラ。結局みんなハブられとんねんコラ」オサムが吐き捨てる。
「つまりもうギンガは檜腹村から居場所を変えたかもしれないということよ」セリがいった。
「じゃどうするの」
「どっちにしたってスズシロさんは敵に狙われる。でもそれをノンビリ待ってるのはゴメンだわ。それでこちらからとりあえず檜腹ミューカス学園に足を向けてみることにしたわけ。そこに行けば何かのヒントがあるかもしれないから」
「ミューカスの学園牧は誰なの?」
「それは」
「ミューカスの学園牧はマリマリアじゃコラ」オサムがセリの横から口を出した。
「えっ、尾梅ジャンディス学園じゃないの?」
てっきりセリのクラスメイトだと思っていた。
「マリアとは中学からの友だちだったわ。ご両親が田舎に引っ込んだので、彼女もそれについていったのよ」
「……そうなんだ」
「なんにしてもギンガに捕まった以上、彼女もミューカスにいる可能性は低いけどね」
「何をごちゃごちゃ話しとんねんボケ」
熊が強引に五人のあいだに割って入ってきた。
「俺も一緒に行くぞボケ」
やる気まんまんで鮭をぶんぶん振り回している。
「なんじゃコラ。おまえまだここにおったんかコラ」
「おらいでかボケ。俺が受けた屈辱は決して忘れへんのんじゃボケ。いっぺんギンガの野郎どつかな気ぃすめへんのじゃボケ」
「おまえ名前はなんていうねんコラ」
「名前なんかあるかいボケ。熊は熊じゃボケ」
「まあええわコラ。勝手にさらしたらええやんけコラ」オサムが向き直り「ほな俺らもそろそろ行こかコラ」
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