【アニマル軍団】
「これだけたくさんの連中が集まれば、きっとそれなりの戦力にはなるわ」
セリは今や陥没地帯を埋め尽くすように集結している南多魔エリアの不良どもを眺め回した。
「そうかなあ」ツムリは首をかしげる。
数は多いけど、僕ひとりにみんな簡単にやられちゃったしなあ。シリコダマギンガが圧倒的パワーを持ったやつなら、ぜんぜん戦力にならない気がするけどなあ。
「俺も戦うぞボケ」熊が鮭を振り回しながら気勢を上げた。「ギンガのやつ、俺を尻の割れ目に挟ませやがってボケが。挟んだヂョーより挟ませたギンガのほうがよけいに許されへんのじゃボケ。やからギンガをしばくんじゃボケ」
ヂョーが、チヂワレヒロシとの戦い以来ずっと倒れ伏したままでいるドラゴン=ボテフリゲンタロウの脇腹を蹴った。
「おいおいおいおい、てめえいつまでおねんねしてんだよ。さっさと起きろ」
蹴られたゲンタロウは呻き声をあげると、緩慢にモゾモゾと体を動かす。ドラゴンに変身したおかげで消耗するスタミナは相当なものであることがうかがえた。
「おい、稲儀グローイン畜産高校のヨシズガケジュンはいるか」
呼びかけに答え、ひとりの不良がズイと前に出てきた。
「おまえんとこで飼ってるすべての動物を集めろ」
「はい」
返事をすると、ヨシズガケジュンは指笛を吹いた。
音は高らかに陥没地帯を飛び越え、鉢王子の焦土の遠くまで響き渡った。
やがてしばらくすると、彼方から地鳴りのようなものが聞こえてきた。
セリ以外、ツムリもオサムもアザミもスズナも、いったい何事かと陥没地帯の上の縁にあたる円周をキョロキョロと見回している。
地鳴りは陥没地帯の四方八方から間合いを詰めてきて、そうして縁を取り囲んだかと思うとピタリと止まった。
次の瞬間、おびただしい動物の顔が、すり鉢状の底になっているこちらを縁からヌッと見下ろしてきた。
「あれは……」ツムリは絶句する。
「稲儀グローイン畜産高校で飼われている動物たちのようね」セリがいった。「ヨシズガケジュンは動物使いの能力を持っているのよ」
改めて見回すと、確かに畜産とはなんの関係もない動物が大量に混じっていた。馬や牛や豚どころか、トラや豹やピューマにチーター、ライオンやカンガルーやバッファロー、アシカやマンモス、トリケラトプスみたいなものまでいた。空高く巨大怪鳥が旋回している。
(そうか、そういうことか)これなら人間たちよりよっぽどたのもしい戦力になるかもしれない。
ヂョーはようやく上体を起こしたばかりのボテフリゲンタロウに、
「おいゲンタロウ、悪いけどドラゴンに変身してくれねえか。俺たちは今からギンガ退治に行くからよ」
「……」
まだ体力の回復していないゲンタロウはカンベンしてくれといった目でヂョーを見上げるが、いくらゲンタロウが火野エンパイマ学園の牧であっても、南多魔エリアぜんたいを統括するモミノコヂョーに逆らうわけにはいかなかった。
もちろんずっと気絶していたゲンタロウにはヂョーがもう何も尻に挟んでいないことなど知るよしもなかった。
しかたなくといった感じで、ボテフリゲンタロウは両手を前に伸ばし、ふたつのてのひらで目に見えない球体を包み込む例のポーズを取る。
最前と同じく両手のひらのあいだの光がスパークし、発生した稲妻とともにゲンタロウは光に包まれ、光が変形するとドラゴンのかたちになった。
しかし、さっきとくらべるとどうもイマイチ迫力がない。こじんまりとした感じなのだ。
無理もない。体力が戻らないうちから強引に変身させられたものだから、一同の目の前に現れたのは、人間と同じ大きさのプチドラゴンだった。
「てめえ、舐めてんのか」ヂョーが睨むと、プチドラゴンは申し訳なさそうにヂョーを見て首をうなだれた。
「しょうがねえ。おいてめえら、行くぞ」
そういうとヂョーはやおらドラゴンの背にまたがった。
ドラゴンは大儀そうに羽ばたくと浮き上がり、陥没地帯の底から一足先に浮上していった。
続いて、ヂョーに従うように南多魔エリアの不良軍団は各自ぞろぞろと斜面をのぼっていき出した。
「私たちも行くわよ」セリが号令をかけ、ツムリはじめ一同もまた陥没地帯をあとにするのだった。
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