【復活】


「あなたはずっと死んでいたのよ」セリが声をかける。


「あ?」


「スズシロさんがあなたを生き返らせたのよ」


 スズナは、まだ立ち上がらずに上体を起こしたまま青い顔をしている。

 一瞬胡乱な顔つきになったヂョーは、しかしすぐに元の冷笑的な表情を取り戻し、


「そうかよ、お嬢ちゃんが俺を救ってくれたのかよ。そんなに俺に惚れてたんだ。それならそうと最初から素直になってりゃよかったんだよ」


 相変わらずのヂョーの言葉に取り合わずセリがいった。「あなたこれからどうするの」


「どういう意味だよ」


「もうふつうの人間になったあなたに学園牧の資格はないわ」


「あ?」ヂョーは思わず自分の尻に手をやった。


 何も挟まっていない。

 熊は?

 見ると、当の熊はツムリやセリたちと一緒にいるではないか。


「てめえ、何してやがんだそんなところでよ」


「……ボケ」熊はそっけなかった。


「どう? 私たちと一緒にギンガの支配を終わらせない?」


「何? 俺がか」


「そうよ。あなたもいやいやギンガに従ってたんでしょ」


「チッ、だからおまえらの仲間になれってか」


「そうよ」


「……そうだな」ヂョーはちょっと考えるふうな顔をし、


「そこの命の恩人のお嬢ちゃんを俺にくれたら考えてやってもいいぜ」


「えっ、そんなあ」ツムリが思わず口を挟む。


「あなた何か勘違いしてるようね。もうあなたにはなんの能力も備わっていないのよ。あなたひとりじゃギンガに逆らうことはおろか、どの学園の牧にも勝てないわ」


「チッ、じゃあどうして声をかけてくんだよ。俺なんかほっときゃいいじゃねえか。だいたいなんでこの俺さまがよりにもよっておまえらなんかとお手々つないでなかよくしなきゃいけねえんだ」


「おい、もうこんなやつほっとけやコラ。こいつもう使い道ないでコラ」オサムが気色ばむ。


「そうでもないわ」セリはそういうと、陥没地帯の底から縁のほうを見上げた。


 すると、そこからさっきツムリに倒されたおびただしい数の南多魔エリアの不良軍団どもが地面の縁をぐるりと取り囲み、こちらを見下ろしているのがわかった。


「みんな、意識を取り戻したんだ……」ツムリがつぶやく。


 やがて連中は、こちらに向かってぞろぞろと斜面を下ってきた。

 しかし、そこにはもはやギラギラした戦闘意欲はまったく感じられなかった。

 ある者は足を引きずり、またある者は肩を貸してもらい、別のある者はおんぶしてもらい、担架に乗せられているやつさえいた。ほとんど敗残兵の行軍だ。先頭は例のモヒカン、スキン、パンチ、ピアスヘッドのむくつけき四人組だった。


「……兄貴ぃ」


 よろけながらようやくたどりついたパンチが情けない声を出してきた。


「なんだなんだ、揃いも揃ってぶざまだな。全員無事かよ」


「おかげさまで負傷者多数」モヒカンがいった。


「ケッ、景気の悪いツラしてんじゃねえ。で、わざわざここに何しに来た」


「何人か、ここでのやりとりをあそこの縁からずっと聞いていた者がいるようです」スキンがヂョーに着替えを渡しながらいった。


「で」服を着ながらジョーが聞く。


「事情はわかりました。こいつらに協力するかどうかはともかくとして、俺たちも、ギンガ様と、いやギンガのやつと戦いましょう!」スキンがいった。


「そうだ! これ以上あんな野郎のいいなりになんかなるこたねえ。俺たちもようやく気がついたんだ」ピアスヘッドが気色ばむ。


「おいおいおいずいぶん威勢がいいじゃねえか」ヂョーが思わず苦笑していった。「ここにいないはずのギンガに今までずっとビビッてたくせによ」


「こいつらの話を聞いて考えが変わったんだ。寄与瀬スピュータム学園のミタラシオサムも立皮フィーシーズ学園のコテマリアザミもギンガの野郎を嫌ってる。もともとはナズナセリもそうだ。学園やエリアにかかわらずみんな同じ思いのはずだ、ってことがわかったんだよ。だったら」モヒカンがいった。


「だったらなんだ、こいつらと力を合わせてギンガを倒せってのか」ヂョーは蔑むような目つきで子分どもを見た。


 するとパンチがスッとヂョーの側に寄ってきて、小声で耳打ちするみたいな感じで、


「協力するフリだけですよ、フリだけ。ギンガを倒したあと、隙を見てほかの学園牧どももついでに倒してあとは兄貴が東恐じゅうの学園をまとめりゃいいんです」


「てめえ、悪いやつだな」


 しかし、会話の内容が聞き取れなくとも、何を話しているのかツムリたちにはお見通しだった。なぜならミタラシオサムもコテマリアザミも同じ考えを持っていて、しかもそれを堂々と公言していたからだった。ともあれ今は、何よりもギンガをやっつけることが先決であるとセリなどは考えているようだった。


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