【スズナのアイテム】
でも確かにそうだ。正当派美少女のスズナちゃんがふだんから気軽に人にそんな話のできるわけがない。お尻の割れ目に何かを挟んで蜜を出すだなんて。たとえすべて事実だとしても。
「……それで、じっさいに夢のとおりに試してみたの?」セリがスズナに聞いた。
「……はい」
「ひよこは」
「生き返りました」
「今も?」
「今も生きてます。ニワトリになっていつも家族のテーブルで一緒にごはんを食べています」
「……」
一瞬会話に空白ができた。
セリは咳払いすると、
「聞きにくいことだけど、それ以来、その、ずっと挟んでるの?」
「よその学園の生徒たちに絡まれているところをセリさんに助けてもらったあと、家に帰ってから、これから起こりそうな万が一のことを考えて、その……」
「挟んだのね」
こっくりとスズナはうなずいた。
「それが見事に役に立ったってわけね」
「そやから」オサムがイライラしたようにいった。「おまえは今いったい何を尻に挟んどんねんって聞いとんねんさっきからコラ」
「それぞれが何を挟んでるか聞くのはルールに反するわ」セリがいった。「あなたにもわかってるはずよ。それに、コテマリさんのいうとおり女の子に恥をかかすのはあまりほめられたことじゃないわね」
「おまえにはデリカシーがなさすぎだと思っていてぇ」ここぞとばかりにアザミも同調する。
「やかましいんじゃコラ。おまえも尻に何挟んでるかいえコラ。俺もいっぺん竜巻起こしてみたいんじゃコラ」
「あたしはノドチンコびろ~んなんてまっぴらだと思っていてぇ。だからおまえが何挟んでんのか知りたくもないと思っていてぇ」
「首しめたろかコラ」
ふたりのやり合いを聞きながら、実はツムリも気になってしかたがなかった。いったいスズナちゃんは何をお尻の割れ目に挟んでいるんだろう?
(っていうか、僕らと同じようにスズナちゃんだって、なんにも知らないふりをしながらじっさいにはこっそりとお尻に何かをずっと挟んでたんだなあ)
改めてその事実に気づくと、もうスズナの顔をまともに見るのさえ恥ずかしくなってきた。今、割れ目に何を挟んでるんだろう何を挟んでるんだろう何を挟んでるんだろう、どうしようもなく押し寄せてくるゲスの興味をおさえつけることができない。そんなことを空想しているヒマなどないはずなのに、気がつくと全裸のスズナが白いお尻に何かを挟んでいるイメージが頭いっぱいに広がってクラクラとめまいがした。そのくせかんじんかなめのたいせつな部分は『?』マークで隠れていて何も見えない。
(挟んでいるのはさくらんぼかな? イチゴかな? 宝石かな? ひょっとして……ああ、もし、きゅうりやナスだったりしたら? ぐおーっ、僕はいったいどうすればいいんだぁ~っ)
すると、いつしかオサムが軽蔑のまなざしを向けていた。
「おまえコラ、さっきから何ひとりで悶えとんねんコラ」
「はっ」ツムリはわれに返るとあわててクネクネ踊りを止め、またしても顔を真っ赤にさせた。
アザミもツムリの顔をじっと見ながら、
「それ、鼻血じゃないかと思っていてぇ」と指さした。
「あっ」鼻に手をやると、あんのじょう血を出している。カッコ悪いことこの上ないが、もうこれ以上スズナにハンカチを借りるわけにはいかない。だいいちそのハンカチは今スズナの手首に巻かれてある。ツムリは借り物の学生ズボンのポケットをゴソゴソやるとくしゃくしゃのハンカチを取り出した。誰だこの汚いハンカチの持ち主は。鼻をかんだようなあとがある。しかたがないのでツムリはそれで血をぬぐった。
スズナはといえば、そんなツムリを見ていたのかいないのか、ずっと恥入るようなうつむきかげんの顔でいる。無理もない。いうなればずっとスットボケてたわけだから。
「そやけど、あれやんけコラ」オサムがいった。「これで俺らは最強の武器を手に入れたことになるんちゃうかコラ。何しろ仮にギンガに殺されたってなんぼでも生き返れんねんからのコラ。ある意味こいつがおったら俺らみんな不死身やんけコラ」
「確かにそれはいえると思っていてぇ」アザミも同調した。「これなら最終的には誰にだって勝てると思っていてぇ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」ハンカチを鼻に当てながらツムリがあわてて口を出した。「スズナちゃんを戦いに巻き込む気?」
「おまえアホかコラ。もうとっくに巻き込まれとるっちゅうねんコラ」
「その通りだと思っていてぇ」
「で、でも、最初はスズナちゃんを救い出すのが目的だったのに、ギンガを倒すためにわざわざ危険な場所に連れて行くなんて本末転倒だよっ」
「状況が変わったんじゃコラ。こいつを戦いの表に出さへんかったらええだけやないけコラ。殺された味方を生き返らせてくれたらそれでええんじゃコラ。後方支援じゃコラ」
「その通りだと思っていてぇ」
「そんな……」
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