【秘密】
学園牧どうしも一枚岩ではない。
仮にギンガの支配を終わらせることができたら、また最強の覇者を決めるための混沌とした学園抗争がはじまるんじゃないだろうか。
そう思うとツムリは暗い気持ちになった。それじゃ意味ないよ……。
「そんなことより……」
どこまでもクールなたたずまいを崩さずに、セリはスズナに問いかけた。「そろそろ説明してもらえるかしら」
「あの……私……」
スズナは泣き出しそうな顔で一同をうかがうようにしている。
「そやんけコラ」オサムが今度はスズナを責めはじめた。「おまえコラ、今までなんで黙っとったんじゃコラ。あんなことがふつうの人間にできるわけあらへんやろコラ。俺ら見とったんやぞコラ。ははあコラ、おまえホンマはギンガの手先やなコラ」
「それはないわ」セリが即座に否定した。「彼女がギンガの手先なら、絵戸川ヒカップ学園はとっくにギンガの傘下に入ってたはずだわ」
「ほんならなんでこの女にあんな能力があるっちゅうねんコラ。だいたいおまえコラ、尻に何挟んどんねんコラ。何挟んだらあんなことができんねんコラ」
「私……」
「『あんなこと』って、『あんな能力』って、何?」ツムリが聞いた。
「この女はのぉコラ、おまえを生き返らせたんじゃコラ。特殊な能力を使ってのぉコラ」
ツムリはさらに思い出した。あれはやっぱり夢じゃなかったんだ。瀕死の自分が見た現実の出来事だったんだ。スズナちゃんは切った手首から蜜を垂らして焼け焦げた僕の命をよみがえらせてくれたんだ。でも、どうしてスズナちゃんにそんなことができたんだ……。
「私たちがあなたたちを探してここまでたどり着いたら、ちょうどスズシロさんがツムリくんに対して不思議な能力を行使してたっていうわけ。あんな能力、今まで見たことがないわ。どうしてずっと黙ってたの」
しだいにスズナの目に涙がいっぱいあふれてきた。
「ゴメンなさい。どうしてもいえなかったの」
「ほら見ろコラ。やましいことがあるからいえんかったんやろがコラ」
「違います、違うんです」
「ほたらなんでずっとトボけとったんじゃコラ。今まで私なんにも知りませんちゅな顔さらしやがってコラ。カマトトもええとこやんけコラ」
「そこまでいわなくても」
オサムがあんまりポンポンいうもんだから、思わずツムリはスズナの前に出て彼女をかばうようにした。
「そやから自分の能力をなんで今まで黙ってたんじゃっちゅうとんねんコラ。さあお嬢ちゃんコラ。尻の割れ目に何を挟んどるかいうんじゃコラ」
「おまえ、バカかと思っていてぇ」アザミがオサムを睨んだ。
「あコラ? 何がバカじゃコラ」
「乙女がそんなこといえるわけがないと思っていてぇ、いくら無粋なやつでもそのくらいはわかるはずだと思っていてぇ、だからそれがわからないおまえはバカだと思っていてぇ」
「うるさいんじゃコラ。何が乙女じゃコラ。今は恥ずかしがってる場合ちゃうやろコラ」
「私が説明してほしいと思っているのは」セリがあくまでもひんやりとした態度と言葉で、しかし突き放すような感じでもなくスズナに問いかけた。「どこで『その秘密』を知ったのかっていうことよ」つまり尻にものを挟む秘儀のことだ。
「ギンガっていう方とはなんの関係もありません。夢に出てきたんです。それで……」スズナはおびえる口調でいった。
「夢やとコラ」
こっくりとスズナはうなずいた。
「どういうことなの。もう少し詳しく説明して」
「半年くらい前、私、縁日で両親にひよこを買ってもらったことがあったんです。でも、すぐに死んじゃって……。それがすごくショックだったんです。そしたら、その晩、夢の中に天使が出てきたんです。それで、天使がいったんです、死んだ命を甦らせる方法を教えようって」
「……わかったわ。つまりこういうことね。お尻に何かあるものを挟んで手首を切ると、命を甦らせる蜜が出ると」
こっくりとスズナはうなずいた。
「けーっコラ、都合のええ話やのコラ」
「本当なんです。でも、こんなこと誰にもいえないからずっと黙ってたんです。恥ずかしいし……」
最後の一言は消え入りそうなくらいちいさくなった。
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