【新加入】


「誰も脱がしてないわ」セリはどこまでもクールだった。「服は燃えたのよ」


「どういうこと?」


「きみは一度、火に焼かれて燃え尽きたのよ。スズシロさんによると、きみは地球を一周して元の位置まで戻ってきたようね」


「???」


 思い出した!

 そうか、全部思い出したぞ。

 地球を一周するうち、弾丸のようなものすごい火の玉になって太塀洋とタメリカ大陸とそしてきっとユーレシア大陸を越えて元の場所に戻ってきたんだ。


 ツムリの記憶の中に、スズナを無理やり引っ張っていくモミノコヂョーのうしろ姿が見えてきた。

 その後頭部向かって、全身燃えるツムリは突進していく。

 ヂョーが振り向いた瞬間、すべてが空白となった。

 視界は真っ赤になり、次に真っ黒になった。


(この時、ヂョーを巻き込んで火だるまにしたんだ)


 完全なる沈黙が訪れ、ツムリは意識を失った。

 わずかな生のともしびが消えようとしているその時に、スズナが癒しの蜜でツムリを蘇らせたのだ。塩鮭の切り身と一緒に。


「ヂョーときみは、ふたり一緒に燃え尽きて比喩的な意味じゃなく灰になったのよ」セリがいった。


「……」


「あれを見て」


 セリが指さした方向には、まだその場にぶっ倒れたままのボテフリゲンタロウの近くに、地面の上に焦げた流木のようなものが横たわっていた。


「あれは、何?」


「モミノコヂョーの死体よ」


「ええっ」


「あなたがやったのよ。っていうか、ついさっきまであなたもああだったのよ」 


「……」とても人間の姿には見えない。炭化した何かの残骸だ。


「とりあえずこの服着とけコラ」


 不意にオサムがそういうと、持っていた鉢王子ヴォミティン学園の、袖なしの皮ジャンを含む学生服一式をバサッとツムリの前に放り投げた。


「え? これ誰の?」


「おまえの体型に合うやつ探すの苦労したんじゃコラ。感謝せえよコラ」


 よく見ると下着までちゃんと含まれている。


「……ひょっとして、誰かのを脱がせたの?」


「向こうのほうに気絶した南多魔のやつらがいっぱい転がっとったぞコラ。あれもおまえが全部やったんかコラ。ひとりでずいぶん活躍したもんやのコラ。あん中からおまえの体型に合うのんを選んだったんじゃコラ」


 ツムリはパンツをつまみ上げ、


「ってことは、これ、誰かのはいてたやつ?」


「贅沢いうなコラ。おまえフリチンのままでええんかコラ」


 確かにそれはそうだが……。


 しかたがないので、ツムリは立ち上がると人のパンツをもそもそと穿いた。その所作の情けない感じにツムリは自分の顔がさらに赤くなるのがわかった。

 そのあいだセリはたぶん呆れ顔で、そしてスズナは恥ずかしそうにうしろを向いていた。じーっと見ているのはミタラシオサムと、それから吊り目の女、コテマリアザミだった。


「きみは、どうして……」服を着ながらツムリはコテマリアザミに聞いた。「僕らと一緒にいるの?」


 アザミはフンといった表情で目をそらし、


「別におまえたちに寝返ったわけじゃないと思っていてぇ、もし結託してギンガを倒せるんならそっちのほうが先だと思っていてぇ。そのあとで今度があたしたち立皮フィーシーズ学園が天下を取ってやろうと思っていてぇ」


「説得がきいたのよ」こちらを向いたセリがいった。「学園牧どうしが協力すればきっとギンガを倒せるってね」


 アザミの中にもやはり葛藤はあったのだ。ギンガを嫌っているのはやはりアザミも同じのようだった。彼女も単に強い者に組み伏せられて、無理やり命令に従ってきただけなのだ。


「ハーレム送りになるくらいなら学園牧になったほうがマシだったと思っていてぇ」とアザミは弁解した。


「おいコラ」いきなりオサムがアザミに食ってかかった。「立皮フィーシーズ学園なんかに天下は取らさへんぞコラ。ギンガを倒したあとに天下を取んのは俺ら寄与瀬スピュータム学園のほうじゃコラ」


「うるさい黙れと思っていてぇ」冷たい目でアザミがオサムを睨みつけた。


「うるさいのはおまえじゃコラ。なんやったらここで決着つけるかコラ」


「望むところだと思っていてぇ」


「待ちなさい」セリがアザミとオサムを制する。「ギンガを倒したいんなら内紛は後回しにしておくことね」



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