第4章
【全裸】
ふと目覚めた。
……目覚めたってことは、今までずっと寝ていたんだろうか。
よくわからない。
やっぱり夢を見てたような気がする。
と、改めてツムリは思う。
どんな夢かは忘れた。
混乱している。
しばらくのあいだ、ツムリは状況が把握できずにぼんやりしている。
ここは?
ハッと上体を起こしてキョロキョロとまわりを見回す。
まるでここは蟻地獄の底だ。
三六〇度、陥没した地面の縁がツムリの目線のはるか上を取り囲んでいる。
(どこかで見たな、この景色)
どこかで見たけど思い出せない。
「そうだ」
思い出した。ここは……。
連れ去られようとしていたスズナちゃんを追いかけて来た場所だ。
ドラゴンが穿った巨大なすり鉢状の穴だ。
あのあと、どうなったんだっけ。
あのあと、確か自分は……自分は……モミノコヂョーに思い切り空高く投げ飛ばされたんだ。
でもどうしてまた同じ場所にいるんだろう?
わけがわからないぞ。
スズナちゃんはどこだ。
いない。
何がどうなったのかよくわからない。
(そうだよ、僕の体は燃え尽きたはずだ。なのにどうしてヤケドひとつせず無事なんだ。ひょっとして、これも塩鮭のせい?)
思わずツムリは自分の尻に手をやる。
「ある……」
塩鮭の切り身は、依然としてツムリの尻の割れ目に律儀に挟まっていた。
「ああきっとそうなんだ。塩鮭のせいで僕は助かったんだ……」
ツムリは思わず声に出していった。
するとすぐさま、
「違うわ」
という声がツムリの背後で聞こえた。
「うわっ」
不意に間近から話しかけられたのでツムリはすっかり驚いてしまい、うしろを振り返ると同時にコロンと倒れてしまった。
ツムリのうしろに立っていたのは、ナズナセリ、スズシロスズナ、ミタラシオサム、そしてもうひとり、吊り目の見知らぬ女だったからだ。いや見知らぬ女じゃない、この吊り目には覚えがある。そうだ、竜巻を起こした立皮フィーシーズ学園のコテマリ……コテマリアザミだ。
「……スズナちゃん、そんなところにいたの」
どうしてみんなここに勢ぞろいしているんだろう。ますますツムリはわけがわからなくなってきた。
それに、
(確か僕は燃え尽きたはずなんじゃなかったのかな)
そうだ、確かに燃え尽きた。
あの時、ツムリは自分の全身が空気の高圧力で燃えているのに気づくと同時に激痛で気を失いそうになっていることを思い出した。
でも今、こうやって自分は生きてる……。やけどなんてぜんぜんしていない。
「そう、きみは一度死んだのよ」
ツムリの心の声が聞こえていたかのようにナズナセリが口を開いた。
ゆっくり立ち上がったツムリは、四人の前に面と向かった。
「キャッ!」
スズナが急に顔を真っ赤にさせ、両手で目を覆った。
「えっ?」
もう一度自分の体を確かめたツムリは、
「あーっ!」
と、思わず大きな声を出した。
ツムリは何も身につけていなかった。
全裸だったのだ。
(今ごろ気づくなんて!)
あわてて股間に両手をやった。
「ヒドイよ。教えてくれたっていいじゃない!」
「アホかコラ。目がさめて一番最初に気づかんかいコラ」オサムがバカにした口調でいった。
確かに、尻の塩鮭を手で確認した時に気づくべきだった。つるんと丸出しになった臀部にダイレクトに触れたはずなのに。
しかし、全裸でも塩鮭が尻から外れなかったとは奇跡だ。竜巻に飛ばされた時は外れたっていうのに。得たパワーを発揮すればするほど挟んだアイテムとは一心同体になれるのかもしれない。心が通じあうというわけだ。でも今はそんなことより、
「僕の服、誰が脱がしたの?」真っ赤になってツムリは聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます