【不良たち】
「てめえ、ちょっと気に入らねえな」
金髪は凶悪な顔をおもいきりツムリに寄せてきた。
ツムリは恐怖のために全身がぶるぶると震え出した。
すると、それを見た金髪の表情がまた急に緩み、近づけていた顔をスッ離すと、
「そうなんだよねえ。今この地域には女の子が不足してるんだよねえ」と、おどけた仕草で笑ってみせた。
「特にかわいい子がね」そういうと今度はスズナの全身を舐めるように見回した。
「兄貴、こんな上玉めったにいませんぜ。ギンガ様に献上して差し上げたらどうですか」パンチが金髪の耳元でささやいた。
(……あれ? ギンガの指令を聞いてなかったのかな。それともまだ目の前にいるのがスズナちゃんだって気がついていないのかな?)
「ケッ、てめえギンガギンガってうるせえんだよ。俺は今だってギンガなんて認めちゃいねえぞ」リーダーの金髪が吐き捨てるようにいった。
「マ、マズイすよ兄貴そんな大声で」パンチがちょっと焦った顔を見せる。
「てめえにはプライドないのか」金髪が急にムキになった。「俺はいいかげんウンザリなんだよ。だいたいヴォミティン学園をメチャクチャにしたのはギンガのやつなんだぞ。見てみろ、この町もそうだ。いい女も全部ひとりじめされてよ。たまにはギンガの野郎を出し抜いたってバチは当たらねえだろうがよ」
金髪はそういうと、ツムリをギロリと睨み、
「と、いうわけで、この女は俺たちがもらう。てめえには用はないからもう行っていいぞ。解放してやる」
そうしてまたしてもスズナの腕をすばやく掴み、圧倒的な力でぐいっと自分のところに強引に引き寄せていた。
「ああっ」スズナはうしろから両手首を握られるかたちになり、抵抗を封じられた。
「スズナちゃん!」
ツムリが駆け寄ろうとすると、
「てめえにはもう用はねえんだよ」
モヒカンがむき出しの太い腕を前に出してツムリの鼻をいきなりピンとはじいた。
「ほげっ」
それだけでツムリは思わずうしろにのけぞりゴロゴロ転がった。
「こんな上玉、ギンガにくれてやるこたねえ」
金髪は舌をレロレロレロと出し、スズナの首筋をペロリと舐めた。
「キャアッ!」
思わずスズナが体をよじるが身動きができない。
「女の子にはやさしくしないとねぇ、ゲヒャヒャヒャヒャ」
「や、やめろっ」鼻を痛そうに押さえながら立ち上がったツムリが震える声を出す。
「この子かなり感度良さげ~っ、ゲヒャヒャヒャヒャ」
「ツムリさん、助けて……」
もはや目にいっぱい涙をためたスズナがツムリに哀願する。
しかしツムリにはもうどうすることもできない。せっかくスズナちゃんの前でヒーローになれるチャンスだったのになんてザマだろう。塩鮭……、塩鮭の切り身さえあれば……。
「ス、スズナちゃんを離して」ツムリはヘタレ声でそういうのが精一杯だった。
「スズナちゃんを離して~っ」金髪がバカにしたように繰り返し、仲間が下品な声で笑った。
「おまえのようなヘタレにはもったいないんだよ小僧。俺がじっくりとこの子を開発してやるからよ」
そういうと金髪はさらにスズナの首筋から耳までを舌で舐め上げた。
「キャーッ!」
「や、やめろぉーっ!」ツムリの両目には涙がいっぱいあふれてきた。
「ゲヒャヒャヒャヒャこのヨガリ具合がたまらんぜ!」
「おねがい……や、めて……」スズナは全身からすっかり力が抜けたかのように、体をよじることをやめてしまった。
「よお、兄貴ばっかりずりぃじゃねえか」ピアスヘッドが恨めしそうな声を出す。
「わかってるって。あとでてめえらにもたのしませてやんよ」
「く……」
ツムリは絶望と怒りと屈辱で震えている。誰も入ったことのない聖域にこいつらは土足で上がり込んで汚そうとしている。聖なるものへの冒涜だ。でもどうすればいいっていうんだ、塩鮭もないのに。
いや、もうこうなったら塩鮭なんて関係ない。塩鮭を挟んでいようが挟んでいまいがここは自分の命を賭けて彼女のことを守らなければいけなかった。このままスズナちゃんが辱められるのをただ見ているだけじゃ絶対にダメなんだ。
「や、やめろーっ!」
とうとうツムリはダッシュして頭から金髪にぶつかっていった。
金髪は事もなげに体をかわすとツムリの足を引っかけた。ツムリはステーンと転び、そのまま三メートルほどヘッドスライディングした。メガネは破壊されツムリの顔からはじき飛んだ。
「ゲヒャヒャヒャヒャ、アウトーッ!」
「く……」
屈辱にまみれながらも立ち上がったツムリは、ゆるりと振り返って不良連中に視線をやった。
メガネがはずれてしまったので、彼らやスズナの表情が読み取れない。それでも恨めしげに連中を睨みつけ、もういっぺん全力で金髪にぶつかっていく。「クソーッ!」
「調子に乗ってんじゃねえぞこの野郎」
今度はピアスヘッドがズイッと出てきてツムリの腕を取ると、ブーンと投げ飛ばした。
ツムリは宙高く舞い、ひしゃげた鉄条網にガシャンとぶつかってその場にうつぶせに倒れ込んだ。
体の芯まで激痛が届き、動けない。
「う……う……」
やっぱりダメだ。どうしてもダメだ。スズナちゃんを助けることがどうしてもできない。この時ほどツムリは自分のヘタレぶりを呪ったことはなかった。
なんとか首だけを持ち上げ、スズナの様子を確かめようとするが、その時、ツムリの目の前に何かが落ちているのが目に入った。
「あっ……」
これは……!
塩鮭だ。
塩鮭の切り身が体を横たえるようにそこに落ちていた。
カチカチに固くなっているぶん少し縮んで見えるが、間違いなくツムリの落としたものに違いない。それ以外に塩鮭の切り身がここに落ちている理由はちょっと思いつかない。仮にツムリのものじゃなかったとしても焼きあとのある塩鮭でありさえすればなんの問題もないはずだった。
「ああ……」
天はまだ正義を見捨てていなかった。
これさえあればスズナちゃんを助けることができる。
早く……早く、お尻に挟まないと……。
ツムリは最後の力を振り絞り、右手を伸ばして塩鮭を掴むと、よろよろと立ち上がった。
金髪以下、不良連中が「お」とばかりツムリに注目する。
スズナはまだ、金髪にはがいじめにされたままだ。
「おまえ、まだ立てんのかよ。立派だねえ。涙ぐましいねえ」金髪はバカにしたように笑いながらいった。
ツムリは無言のまま、おもむろにズボンのベルトをゆるめ、持っていた塩鮭の切り身をブリーフの中の尻の割れ目に手さぐりですべり込ませると、クイッとベルトを閉めた。
この奇妙な行動に、不良どもはたいした意味を見出さなかったようだ。おおかたベロンとはみ出たシャツをズボンの中にしまいなおしたとでも思ったのかもしれない。
「まあいいや、ヘタレくん、そこでゆっくり見物してろや」
金髪はふたたびいやらしい笑みを浮かべると、ツムリを挑発するかのように舌をベロベロと動かしてみせ、
「もっといろんなとこ触っちゃおうかなあ、これならどうするヘタレくん」
今度はスズナの白い太股を掴むと、金髪はそのままその手をスカートの中に滑り込ませようとした。
「ああーっ!」スズナが身をよじって絶叫する。
「ゲヒャヒャヒャヒャほれほれほれほれ!」
しかし次の瞬間、金髪の手はなぜか途中で急にピタリと止まっていた。
それどころかその腕はスズナの太股から離れ、だらりと下がっている。
周囲の連中は呆気に取られた顔をしている。
いつのまにか金髪の顔のかたちが一瞬にして変わっていたからだ。
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