【吸い込まれる】
どこだ。
どこにいるんだ。
なんとか首を回して周囲を見回す。
「あっ!」
ポッキリ折れたスカイハイツリーの上半分がすぐそこにあった。
バキューム肛門にここまで吸い上げられてきたのだ。兄の尻の割れ目に沿って張りついてしまっていた。ちょうど車輪が轍にはまり込むみたいな感じだった。
そのツリーの先端に近い部分に、スズナが縛られていた。
スズナは純白の下着姿だった。
「スズナちゃん!」
見つけた。とうとうスズナちゃんを見つけた。今までずっとスカイハイツリーに縛りつけられていたんだろうか。通常の時であれば彼女の下着姿を見て間違いなくツムリは鼻血を吹き出していたところだが、状況が状況だけに今は興奮しているような余裕などまったくなかった。
「ツムリさん! 私をこのツリーごと早く肛門の中に押し込んでください!」スズナが叫ぶ。
「えっ! スズナちゃん、何をいってるの?」
「私、聞いたんです! 全部」
「何を聞いたの?」
「あなたのお兄さんからすべての事情を!」
そうなのか。スズナちゃんはもうシリコダマギンガの正体が僕の兄さんであることを知っているんだ。
「私、わかったんです、どうしてあなたのお兄さんが私に会いたがっていたか」
「どうして? いったいどうして?」
「私は……私は……あなたのお兄さんの中にいた手弱女なんです!」
「……手弱女って?」
ツムリはまたしても混乱した。
「あなたのお兄さんが心から軽蔑して、心から分裂させて原形質のかたちで捨てたのが私なんです!」
「スズナちゃん……」
「私……ずっと不思議に思ってました。私の本当の両親はどこにいるのか、ずっとわからなかったんです。でも、これでやっとはっきりしました。手弱女の原形質となって世間に吐き出された私は、裸で道ばたに横たわって泣いていたそうです。その時のことは何もおぼえていません。それより以前のことも同じです。私を拾って育ててくれた両親が、あとになって私に正直に教えてくれました。身元がどうしてもわからないので私は正式に養子になりました。年齢も不明なので見た目で判断してヒカップ学園に一年生として入れてもらいました。だから私は今の両親にとても感謝しているし、尊敬もしています。でも、自分が何者かわからないで暮らすのはとても辛かったんです」
そう語るスズナの顔は悲愴感に満ちていた。
「あなたのお兄さんが私のことを探していた理由もわかりました。お兄さんはネットの投稿写真を一目見て、私が自分の中にいた手弱女であることに気づいたんです。軽蔑して捨て去ったはずのものが知らないところでいつのまにか違う人生を歩んでいたなんて、お兄さんにとっては許せないことだったんです。私をこんなふうに縛って辱めを与えながらお尻の穴に吸い込むことで、自分の過去の恥部を完全に消し去るつもりなんでしょう。でもそれは私にとっては願ってもないことです。うまくいけばあなたのお兄さんの中に戻れるかもしれないからです。そうすればきっとお兄さんの中で暴れている益荒男を沈めることができるはずです。お願いします!」
「無理だよスズナちゃん!」ツムリは叫ぶ。「そのお尻の穴は別の次元に通じているんだ。スズナちゃんをそこに押し込んだって兄さんの心の中には戻れないよ!」
「でも、やってみないとわかりません!」スズナも精一杯叫んだ。「一刻も早くしないと、このままじゃ地球は滅んでしまいます!」
「できないよ! スズナちゃん!」
「ほかに手はないんです! みんな死んでしまったらもう取り返しがつきません!」
「……く」
ツムリは窮地に立たされた。ここで何もしなければ、スズナのいうとおり兄は宇宙の支配者になる。そうなってからではもう遅い。その時にはみんな死んでいるはずだから。
そうか。まだ手は残っているぞ。ツムリは働かない頭で考える。自分もスズナちゃんと一緒にブラックホールに入っていけばいいんだ。だったら彼女ひとりを犠牲にしなくてすむ。ツムリは急にそんなアイディアを思いついた。それなら良心の呵責に悩まずにすむし、実の弟が兄の暴挙を止められなかったことへの贖罪にもなる。でも、このことはスズナちゃんには内緒だ。
「わかったよスズナちゃん、なんとかしてスカイハイツリーをきみごと肛門に押し込むよ!」
「ありがとう、ツムリさん!」
ツムリは間合いをはかりはじめた。抱きかかえている巨大な疣痔から両手を離してスカイハイツリーに飛び移らなければいけない。塩鮭のパワーを最大限に利用してそのままスカイハイツリーを肛門の奥深くまでズプズプと押し入れるのだ。そうしてそのまま自分もスズナのあとを追う。
ところがここで意外な事象が発生した。
いや、意外でもなんでもないが、少なくともツムリには想定外だった。
兄の尻の割れ目にはまり込んでいたスカイハイツリーが、肛門の吸引力に耐えられなくなり、まんなかからひしゃげてふたつに折れはじめたのだ。
そのままツリーはズプズプと蛇の丸飲みのように肛門の中に消えていきはじめた。
「スズナちゃん!」
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