第6章

【焦土】


 目覚めたツムリは、自分がだだっ広い焦土の中に体を横たえていることに気がついた。


 あたりはすっかり暗くなっている。

 夜だった。

 ここはマリマリアの目の中の世界なんだろうか……。


 頭を上げ、ツムリは荒廃した大地を見回し、次に夜空を見上げた。


「あっ……」


 思わず声が出た。

 満天の星だ。

 こんな夜空見たことがない。

 ほとんど隙間がないかのように、キラキラとまたたくおびただしい数の星がひしめき合っている。そのうちのいくつかは地球にこぼれて落ちてきそう、という表現がぴったりなくらいの星の多さだった。

 しかも宝石のように色とりどりだった。夜の星々がこんなにもカラフルな輝きを有していることを知ったツムリは、宇宙の広大深遠な神秘と驚異にちょっと恐怖を覚えたくらいだった。


「……空って、こんなに星がたくさんあったんだ」 


 怖さの中から徐々に感動が盛り上がってくる。

 地上の明かりといえば、遠くに建っているドーム状の建物がみずからを照らしている照明だけだった。


 というか、僕は今、本当はいったいどこにいるんだろうか。ツムリは混乱した。

 あの建物の中にギンガがいるんだろうか。

 建造物の照明がこちらまでぼんやり届いているおかげで、かろうじて足もとが見えるし、周囲の状況も少しはわかる。


「みんな……」


 ようやくツムリは、自分の周辺にアザミやオサムやヒロシや熊が倒れ伏しているのに気づいた。


 見ると、セリがひとりすっくと立ち、遠くのドームをじっと見つめていた。

 ツムリよりも早く意識を取り戻していたのだろう。

 近づいていくと、聞いた。


「……やっぱりギンガは、あそこに?」


 セリは建物から目を離さず、


「わからない。でも、近くにいることは確かでしょうね。私たちは今、どこからかギンガに見られているかもしれないわ」


「ここは……マリアさんの目の中?」


「わからない」


 背後のオサムやアザミたちがようやく起き出してきた。


「……ここは、どこだと思っていてぇ」


「なんじゃ。星がごっつ多いやんけコラ」


 キョロキョロしている。

 セリがツムリにいった。


「あのドーム状の建物、どうやら国立競技場のようね」


「え?」


「右にあるのは東恐体育館、左にあるのが怪画館の残骸のようにしか見えないわ。私たちの今いる場所は芯宿御苑のあたりかもしれないわね」


 ということは、ここは東恐?


「おいおいおいホンマかそれコラ」会話を聞いていたオサム、アザミ、熊、ヒロシが近寄ってきた。


「でも……新しい国立競技場っていつの間に完成したの?」ツムリが聞く。


「ギンガが作ったのよ、たぶん一晩で」


 それは、かつて見たことのない先鋭的なデザインだった。

 照明に照らされるメタリックな外観は宇宙船のようであり、今にも地上を離れて飛び上がりそうに見える。


「ねえ、あれスカイハイツリーじゃないの?」ヒロシが左ななめ後ろの方角を見ていった。


 一同がヒロシの目線の方向を見やると、確かに炭田区にあるスカイハイツリーらしき塔が遠くにあった。要するに暗くてよくわからなかったのだ。まるでつまようじが地平線に刺さってるような見た目なので余計だった。


「……じゃ、ここは、やっぱりマリアさんの目の中じゃないの?」


 どうやら違うようだ。

 マリアの目がワープトンネルとなって千駄ヶ屋まで一気にやって来たのかもしれない。


 さらに周囲を見渡すと、目が慣れたのか、それまで何もないまっ平らな焦土だと思っていたこの大地に、実にさまざまなものが散乱しているのが次々に見えてきた。


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