第6話 婚約発表

翌朝は雨が降っていた。季節外れの冷たい雨だった。二日酔いはなかったが、寝不足だった。しかし、気持ちは高揚しており、会社までの足取りは軽かった。しかし、到着するなり愕然とし落ち込んだ。

総務課内には結婚式場のような飾り付けがなされており、課長の後ろには大きな横断幕が掲げられていた。その文字は「王女様、ご婚約おめでとう!」だった。

僕は訳が分からないまま、一度席に着こうとした。すると、課長に呼ばれた。そして明日付けでの異動というか、出向の旨が書かれた辞令を渡された。

その日1日は、自分の机とロッカー内の荷物整理だけして、終わったら帰って良いとのことだった。作業は2時間もかからず終了し、課員の皆さんに挨拶をし、会社を後にした。いつも缶酎ハイを買うコンビニで、スポーツ新聞が目に入った。一面に王女の婚約の記事が踊っていた。僕は瞬時に一部を手に取り、勘定をすませ、自宅に戻った。

帰宅すると、リビングで母が家事の合間にお茶を飲んでいるところだった。母は僕に気づくと、コーヒーでも入れようか?と言ってくれたが、丁重に断り、二階の自室に引き込もった。

記事によると、王女の婚約は今朝早く発表されたということだった。継母の腹から新しく生まれてくる子どもが男子だということが判明したため、王女に居場所がなくなり、婚約を承諾したのではないかと報じられていた。

王女はまだ19歳である。結婚にはまだ早い気がするが、本人の意志は固いだろうし、王にとっても後妻と世継ぎとの生活に王女の存在は微妙だったのかもしれない。

総務課に籍がなくなったので、当然王女の寝かし付け担当からも外されたと思っていた。ところがパソコンを開くと、これまでと同様、王女の終業後の予定が送られていた。今日の王女は城に戻った後すぐに食事ではなく、室内競技場で打撃練習と書いてあった。さらにそれには僕も参加せよとも書いてあった。今まで表の世界で王女と接したことも、まして城内の施設を利用したこともなかった。最後に変わったことをするものだ。ちなみに寝かし付けの仕事もいつも通りということだった。

とりあえず動きやすい服装と走りやすい靴を身につけて、お城に向かった。


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