第5話 ルール改正

その晩の王女は、鼻息が荒かった。久しぶりに運動したせいだと思っていたら、そうではなかった。ソフトボールのルールについて納得が行かず、憤っているらしかった。今日は私が話すから、あなたはただ聞いていなさいとのことだった。ええ〜、何それ〜。しかし断ることはできず、ベッドに入った王女の傍で拝聴することになった。

まず、お気に召さないのが、左打席の方が一塁に近いことだった。まあ、そうですね。だから右利きの選手でも左打席で打つ人は多いです。

王女はこの不公平を是正すると言い出した。つまり打った後、右打者は一塁に、左打者は三塁に走れと言うのだ。何てこった!そして、従来の一塁は右塁、三塁は左塁、二塁は中塁に改名すると言った。へぇ〜。おもしろい。それで?

先頭打者が左打ちの場合、打ったら右塁に走る。それで、次も左打ちならそのまま左回りに塁を埋めていくだけだが、右打ちの場合は一手間かける。最初の走者は左塁に移動し、試合が再開されるそうだ。2番の右打者がバントしたら、走者は中塁に、打者は左塁に走る。守備がゲッツーを狙う場合、中塁ついで左塁に送球しなくてはならず、内野手は戸惑うであろう。

内野手の名称も当然変えるとおっしゃった。右塁手、左塁手、右遊撃手(旧二塁手)、左遊撃手(旧遊撃手)、そして中塁手だそうだ。中塁手は文字通り中塁に付きっぱなしなのだそうだ。なるほど。さらに、捕手は本塁手であり、投手はいない。なな、なんですって?

打者に球を投げるのは次の打者だそうだ。トスバッティングのように、ファウルラインの外から、打者の打ちやすい球を投げる。投球数は3。3球目が見逃しか空振りかファウルならアウト。

ホームベースの形は他の塁と同じ。本塁手は捕手のように走者の進路を妨害してはならない。いわゆる旧二塁手のように走者に接しなくてはならない。それは安全で良いですね!

それにしても1回の練習で、ここまでいろいろ考えるなんて、姫様すごいですね!と声をかけたら、寝てた。

僕は寝室を出て、寝床がある詰所に戻った。そして冷蔵庫から缶酎ハイを取り出し、一口飲んだ。そして閃いた。社内レクリエーションとしてこの競技をみんなでやってみようと。

僕は明け方まで、この企画に関する文書を作り続けた。




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