第3話 日常業務

翌朝起きたら、もう10時を回っていた。お姫様を無事寝かしつけた後、缶チューハイの長い奴を2本飲みながら、長編のアニメ映画を見つつこたつで眠ってしまった。今日は平日で、僕も11時までには出社しなければならない。ちなみにお姫様は6時半に起床し、メイドたちに身支度を整えさせ朝食を済ませ、騎士達に伴われ出社して行った。ここで少し説明させていただきたい。うちの王国は有限会社の形をとっている。事業内容は、国土である島を使ったテーマパークである。シンガポールのセントーサ島、広島の宮島に近い。王は社長として、王族たちは経営者として働いている。臣民達も希望すればキャストとして働ける。もちろん国であるため、それなりの機関もあり、そこで働くスタッフにもなれる。ちなみにお姫様は、王直属の秘書課に勤務している。単にかわいらしくて気高いだけではなく、課のトップとして、また王の片腕

として頑張っている。

そして僕の仕事だが、いわゆる総務課に勤務している。具体的には島内観光施設の安全衛生パトロールと社員の健康管理、つまり衛生管理者である。少し前までは、名物である王国饅頭の製造と配達の仕事をしていた。衛生管理者の資格は、その部門の現場社員の衛生管理をするために取らせてもらった。まさかそれがキッカケで、本社の総務課に配属され、王女の寝かしつけ担当になるとは思わなかった。

王女の不眠の相談は、王から直接受けた。先代の王妃、つまり王女の実母が亡くなった日から症状が出始め、王が再婚したら薬に頼るようになり、さらに継母が妊娠したことで、一時入院するまでに至ったそうだ。そんなヘビーな話を一労働者である僕なんかにして良いのだろうかと思ったが、一応僕の身元は調べ尽くした上での相談らしかった。

うちの王国には、狭いながらも何でもそろっており、一生涯国内で過ごす人が大半だ。もちろん国外に出てもいいし、むしろ奨励されている。僕は若い頃、この内向きすぎる雰囲気が嫌で、高校を出たらさっさと国外に出た。そしてしばらくふらふらして、この島に戻った。学位も取ったしある程度仕事もした。まあ歳も歳だし、母国で結婚して落ち着きたかったのだ。

王にとって、僕はしがらみのない、ちょっと変わった面白い奴だったのだろう。衛生管理の仕事の一環として娘の体調管理をしてくれないか、少しだけ手当を付けるから、と頼まれた。部屋の外で親衛隊が武器を携えて待機しているのは明白だ。王の命令である。はいと言うしかなかった。

僕が快諾すると、王は破顔一笑した。僕の要望は全て聞くから何でも言ってくれと言った。ただし、他言は無用とのことだった。何だかこちらが眠れなくなりそうだ。

多少の頭痛に苛まれながら、総務課の部屋に入り、自分の席に着いた。普通の課員は8時半には出社し、忙しく働いている。僕は夜が本番なので3時間遅く勤務を開始する。観光施設内の危険箇所をチェックし、関係諸機関と連係して改善する。ゲストが立ち入る場所だけではなく、バックヤードや調理場、機械室なども入念に見て回る。基本的には1人仕事だ。軽自動車で島内を走り、報告書を作り、課長に提出する。改善の必要ありとされたら、その方面に明るい機関に連絡し、具体的な改善計画を立て、実行する。

そんなことをしながら、今日の日没を迎えた。



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