外伝 ZOZAN探偵事務所
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朝、事務所に顔を出した甲斐旬は所長の佐久間から言われた。
「旬。お前入院しろ」
「はあ?何言ってるんですか所長。俺どこも悪くないっすよ」
元々おかしな人だが一体何を言っているんだ。ついに気がふれちまったか。
「いいから、悪くなれ」
「何言ってるんですか?」
「いいか、お前は今日からちょっと心を患え。精神科に入院するんだ」
「そんなばかな」
「あのな、吾妻という男がそこに入院している。そいつを見張れ。見張って見舞いに来る奴がどんな奴らか逐一連絡を入れろ。男も女も。写真もな」
そういうことか。また浮気調査でも請け負ったのか。でも男もってのは少し変だが。
「はあ。でも病気でもないのに入院なんてできるんですか?」
「俺がなんとかする。お前はその態を装えばいいんだ」
「それに俺、夜のバイトもあるし」旬は元々近くのキャバクラのキャバ嬢の送迎をやっていた。
「そんなの1日3千円ぐらいなもんだろ。そんなの上乗せしてやるよ」本当だろうか。このケチ所長が。
何でも、我妻という男はある一流企業の人事課長だという。その男を見張ればいいということだったので仕方無く従うことにした。バイト先にも2週間ほど休ませてくれと電話を入れた。きっとキャバの黒服の誰かが代わりにやってくれるんだろう。
旬は佐久間が所長の探偵事務所で働いていた。三か月前に事務所前に張ってあった"探偵募集"の張り紙に誘われて安月給で雇われ始めたばかりだった。
50がらみの佐久間という男が一人でやっている小さな探偵事務所だ。佐久間は長くたくわえた髭、そして鋭いまなざし、不思議な男だ。事務所もZOZAN探偵事務所という奇妙な名前だ。姪だか親戚だかは忘れたが、愛衣香という女子大生が直々出入りしている。佐久間の机の周りには不思議な作りものが所狭しと置いてある。何に使うものかもわからない。正体不明な男だが、まあいいかという気楽なノリで働き始めたのだ。
アパートに戻り、着替えと暇つぶしにと本を数冊バッグに入れ、佐久間の車に乗り込み、連れて来られた病院で、救命救急の医師に診療を受けた。
「先生、こいつ浮気調査とか人の裏の生活ばかり見てたらちょっと精神やられちゃったみたいで、急に泡吹いて倒れちゃったんだ。それで連れてきたんだけどさ。少し入院させて様子見てくれるかな」
嘘八百だ。こんなことで医者を騙せるのか?それにしても入院費だってばかにならないはずだ。よっぱど金のもらえる案件なのか?
医師は聴診器を胸にあて、心臓や胸の状態を確認する。
「まあ問題ないようですが。精神科の先生の診療が必要ですね、一応ベッドの空きを確認してみますね」
医師は、電話でベッドの空きを確認しているようだった。
そこに精神科の医師がやってきた。
「大丈夫ですか。落ち着きましたか」
「はい。何とか」
「ベッドの空きはあるようですよ」
先ほどの空き状況を確認してくれた医師が口を挟み教えてくれた。
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