第53話
文章が書けないのは前々からだった。
文脈が掴めない、趣旨を忘れる、1文がとても長くなる。
そんなことを重ねて重ねて勝手に私は大きくなってしまった。
入試のために必要な資料と、指定の原稿用紙を前に自分の部屋で小さくなっていた。
テレビでも「作文攻略法」みたいなことを放送していたけど、さっぱりうまくいかない。まず例題を理解するのに時間がかかり、どんどん内容は深い部分に行ってしまう。だんだんわからない部分が増えていつの間にか終わってしまう。
文字が読めないことも大きなハードルの一つだ。そもそもどうやって自分が書いた文章を確認するのだ。
今まではなんとなく頭で喋りながらなんとなく書けてなんとなく点数をもらったけれど、試験となると話は別だ。
もしかして、自分で書かなくていいのでは?書き写せればいいのでは?
だとしたら、誰が書くかが問題となる。
昔は通っていたが現在は塾は通っていない。よってアドバイスを受けられる人がいない。
学校の先生はどうだ?一から書いてもらうのは難しそうだ。そもそも入試をやってもらうなんて、下手したら不正になる。
友達にもこの時期に時間がありそうな人はいない。
同じ世代で、時間があって、文章が書ける人。そして、秘密を守れる人。
そんな都合の良い人間がいたものか。と嘆いていると、部屋の外で物音がした。
いつもの通り、弟がカバンの中を勝手に探っている音だ。
閃いた。なんとかなるかもしれない。
なんとかするのは自分だけど。
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