第33話

何事もなかったかのように、彼女は現れた。

もう図書館では会えないかと思っていたが、出会えてしまった。

絶好のチャンスと思い、立ち上がった。

彼女はいつもお気に入りの小説コーナーへ向かう、と思いきや今日は他のところへ流れていく。

目で追うと、誰も寄り付かなかった絵本のエリアで立ち止まり、手にとって大きなページをめくり始めた。僕にとって絶好のチャンスだ。

用意していた文庫本を大切に持ち上げ、彼女の元へ行く。この日のために何日もとっておいたのだ。

一歩また一歩と近づき、彼女の視界に入ったとき、彼女は僕のことを不審なものとして認識した。

「あの...」


「...え、私?」

目をまん丸にしてこちらを見る。そんなに見ないでくれ。


「そう、君、えっと、本好きですよね。」

練習したセリフを思い出すように喋る。

「あ、ああ、文字は好きだけど、それが?」

思っていたより早くこちらのターンがきてしまった。

「...あ、それでこの本面白かったから、僕のオススメなんだけど、読んで、く、ください。」

最後がなぜか敬語になった。

「あー、ごめんなさい。私読めないから、本とか。今はいらないです。」

「え、あっはい。」

???よくわからない。自分の聞いたことに脳みそがついていかない。

どういうことかわからずに、席に帰ってきてしまった。

どうやら僕の1度目の挑戦は終わってしまったみたいだ。

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