第29話

いよいよ読み聞かせの時間がきた。

子供達はまばらで、図書館にいるのは幼児や親を合わせて8人。漫画を読んだり、絵本を読んだり、思い思いに楽しんでいる。


呼びかけをすると、3人の子供が集まってきた。

「みなさんこんにちは。読み聞かせの時間です。今日は久しぶりだけどみらいお姉ちゃんにも一緒に読み聞かせしたてもらいたいと思います。

今日読むお話は...」

いい姿勢のまま神部さんが続け、自然に読み聞かせに移行する。

今回は2冊目のお話を担当することになっている。オーディエンスは3人だが心臓が動いていることを精一杯主張している。


「おしまい。

どうだった?カエルさんちゃんとおうちに変えたらよかったね。じゃあ次はどんなお話かな?」

アイコンタクトで私に場所を変わることを伝える。

緊張してきた。けれど、今までやってきたことをやるだけ。

「こんにちは、今日はこんなお話を用意しました。」

少し早口になりながらも、絵本を見せながら紹介する。選んだ本はもちろん優子からもらった本だ。

さっきも神部さんとリハーサルをし、読めるようにしておいた。


内容は何度読んでも頭に入ってこない。だが、雰囲気は伝わってくる。その空気を子供達に渡すのだ。


「これでおしまい。」

少し早かったかも。伝わったのかな。

「面白かったー!うろこはキレイだったけど心もキレイなお魚さんだったー。」

子供の一人が思ったことを口にする。皆嬉しそうだ。


「今日の読み聞かせはおしまい。来てくれて、ありがとう。また今度ねー。」

神部さんがそう告げると、子供達は帰る支度をしたり、借りる本をもって受付に向かったりしていた。

ひとりの女の子がこちらが片付けている絵本に興味を持った。

「これ面白かった。もう一回読んで!」

私が読み聞かせた本を差し出す。

「...いいよ。膝の上にくる?」


嬉しそうに膝の上に乗ってきたので、目の前で絵本を開いた。納得するまで読み聞かせを繰り返した。彼女の「もう一回」という声が心が満たされていく音になる。私は必要とされていた。

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