第25話
私は絵本の前に座る。
文字をあまり捉えてはいけない。じっとみていると、文字が踊り出してしまい読むことが困難になるからだ。見ているだけならいいのだが、これを発音したり読んだりするのは難しい。最近は顕著に現れる。
「ウチが少しリードする。」
横に並び少しいい姿勢になった優子は、絵本を両手でしっかりと広げて持った。
「あるところに1匹の魚がおりました。」
「あるところに...1匹の魚が...おりました...。」
復唱するのを聞き終えると優子は続けて、2行目を読んでいく。
私は懐かしさを感じていた。こんな感じで、読み聞かせを練習したっけ。
読み聞かせをされていた頃を思い出していた。
古臭い公民館で、優しい笑顔を持った女性が読み聞かせをしていた。私の周りの子は、あまり聴いていなかったり、おもいおもいに過ごしていたが、私は一言一句逃さずに聴いていた。その数は100冊を優に超えるだろう。そして、私も彼女のようになりたいと思い、思い切って声をかけたのだ。
「私も読み聞かせしたい!だけど、私うまく文字読めない。」
「そうなのね。まあやってみてから考えなさい。横で私の話を聴いて、それを真似して喋るだけ、私に合わせてページをめくるのもやってみなさい。」
それからは女性の横で修行をしていた。文字をどこで切るのか、どこで終わるのかを探した。その修行は毎日のように続いた。
私が高校生になるまでは。
「おしまい。」
「ふゆみん。めちゃめちゃうまかったよ。」
私の目を見て言う。
「やっぱり私、忘れてたのかもしれない、読み方を。修行してたのをやめちゃったから、うまくいかなくなることが多くなったのかな。」
「修行?よくわからないけどふゆみんの次やることが見つかった系?」
「...そうかもしれない。」
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