第16話
夕方も過ぎ、姉が帰ってくる頃だ。
高校から帰ってきた姉から課題を勝手に持っていく。いつも通り帰ってきた姉はいつも通りカバンを部屋の前に置いて、いつも通り部屋に戻る。
ぼくには学校も社会もない。ぼくにはこの世界が自分の全てだ。小学校を最後に全て一人でやってきた。
今日の課題は何かな、とカバンに近寄り開ける。いつも課題があるものは別にまとめてある。プリントでもノートでも、ブヨブヨになったクリアファイルに突っ込んでいる。だが、ここ数日間何も入っていない。不思議に思い、ガサゴソと探ってみる。
あった。空白が埋められていないプリントを発見した。
「あるんじゃん...。」
なんだよと呟いたとき、姉の部屋から何かが聞こえた。小さくゆっくりとドアを開け覗くと、声を殺し密かに泣く姉の姿が見えた。
姉とぼくは言わば光と影だ。いつでも笑って、こんなぼくでも希望を与えてくれた。小さい頃からぼくの味方でいてくれた。外でキャッチボールしてくれた。絵本の読み聞かせだってしてくれた。絵を描いてくれた。
ぼくのために、ぼくのことを励ましてくれた。
そんな姉が弱っている時に、ぼくに何ができるのだろうか。
人のための考えが及ばないぼくに腹が立つ。
そっとドアを閉じてしまった。
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